| なぜなの？ どうして・・・？ なぜ何もかも奪っていくの？ もう私には何もないのに 居るべき時も 帰る場所も 生身の体さえも失って 他には何も残っていないのに 失くしたはずの未来（あした）を 諦めたはずの希望を またもう一度信じてもいいのだと いつしかそう思えるようになったのは あの人がそばにいてくれたから 今、この場所で、こうして生きていられることを 幸せだと思えるようになったのは あの瞳の優しい光が私を包んでくれたから ２人の想いが紡ぐ夢だけが 今、ここで、私が私でいる最後の理由なのに 返して！ お願い！返して！ あの手のぬくもりは、まだこの手から消えてはいない あの優しい微笑みは私の瞳に焼きついたままなのよ なのに・・・どうして？ いやよ！こんなの・・・いやっ！！ お願い！！ 私も同じ場所に連れていって！ それができないのなら 早く、粉々に砕いて 空っぽになってしまった心を これ以上、悲しみも痛みも感じないでいられるように なぜあのまま一緒に、その時を迎えられなかったの？ 幸せな明日など望んではいなかった 一緒に夢を見られるだけで幸せだった ただ、せめて最期は・・・ そんなささやかな願いすら叶えられないの？ ―――ジョー！！！！！ 茜色の残照が燃える夕空を、彼女の鋭い悲鳴が引き裂く。 すべてが宙と海に吸い込まれたあとの、沈黙。 波間に漂うその静寂に共鳴する、微かな呟き。 それが俺たちの胸を深く深く抉る。 もう・・・私は私でいられない こんな命なんて、もういらない だから・・・お願い・・・私を・・・今すぐ・・・ 腕の中の細い体から、すうっと力が抜けた。 ぐったりと倒れこむ彼女を、俺は慌てて抱きとめた。 |
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