（見つけた！やっぱりここね）
自分の予想があたったことに心が弾む。
でも―――。
思わずため息が零れそうになる。
でも懸命にその重い息を飲み込むと、かわりにとっておきの微笑を浮かべて、フランソワーズは浜辺への急な崖を降りていった。

やっぱりいつもの彼らしくない。
（あなたなら、もう気がついているでしょう？これだけ近づいているのに）
でも、彼はこちらに背中を向け、暗闇の中で穏やかな海をじっと見つめている。

いつもなら、どんなに遠くから足音を忍ばせて近づいても、彼はすばやく気配を察知して、あの柔らかな茶色の瞳で振り返ってくれる。そこに限りなく優しい光を湛えて。
『なにをみているの、ジョー！』
傍らに寄り添うように座ってそう尋ねると、彼はいつも同じ答えを返した。
『海さ』
海―――彼はよく海を見つめていた。
仲間たちから離れて、ぽつんとひとりで。
『海を見て、何を考えていたの？』
『今までの・・・たたかいを思い出していたんだ』
それがお決まりの返答だった。
でも、本当は―――そうじゃない。
彼はいつも何かを探していた。
海の向こうにある何か。それとも―――海の底深く沈んだ何か、を。

（それにしても、今日のジョーは特に手ごわそうね）
もう足音も聞こえているはずなのに、こちらを振り返ろうとしない頑なな背中が何よりの証拠だ。
（でも、大丈夫よ。私は受けて立つわ）
勇気を奮い立たせるように、再び笑顔を作る。


この１週間ほど、彼はいつものジョーらしくなかった。
その表情は沈みがちで、普段から多くない口数はいっそう少なかった。
（どうしたの、ジョー？何があったの？）
ずっと、とても気になってはいた。
でも詮索めいたことはしたくなかったから、結局何も聞けずにいた。
（本当に大事なことなら、そのうち話してくれるわよね。話せる時が来たら、きっと）
そう思うことで、そう信じることで、ついあれこれ尋ねてしまいそうになる自分を押さえてきたつもりだった。
ところが、そこにさっきのあのハプニングだ。
あれほどジョーらしくないジョーは今まで見たことがない。あんなふうに研究所を飛び出していくなんて。
仲間たちもさすがに心配している。

何度目かの重いため息をそっと押し殺しながら、フランソワーズはわざと足音を立てて、黒い人影に近づいていった。
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