 限界が近づいている。心が軋む音がする。そんなジョーが、今立っているのは、あの時と同じ場所。あの時、彼女に声をかけた場所。この恐ろしい時間が始まった場所。「あら、ジョー。もう目が覚めたの？」 フランソワーズが振り返った？いつもの優しい笑みを浮かべて。本当に、キミはそこにいるのか？ そうあって欲しいと彼が望む、そのままの光景。信じられない！目を大きく見開くジョー。でも、全ては悪い夢だったんだ。ちゃんとキミは、僕に声をかけてくれてる。いつもと同じように。 「フランソワーズ！！」 無骨な大きな手を、差し伸べて、思わず駆け寄っていくジョー。 「ああ・・・フランソワーズ！！！」 駆け寄って、抱き上げて、ジョーは大喜びしようとしたはず。「直った！！直った！！」って叫んでいたはずだった。 でも。 それは幻覚だった。 彼の願望が見せた、とてつもなく残酷な幻影。 駆け寄ったジョーは、彼女の時を追い越した。腕の中にいるはずの彼女は、元の場所にもとの姿で立ったまま。 心が壊れていく。 この頃になると、きっと彼女を見ることさえも、苦痛でしかたがない状況だったでしょう。もう、部屋の中にも、いたたまれなくていられなくなり、デッキの柵にもたれ、打ちひしがれるジョー。 なのに。それでもドアの前に座り込んでいる。開いたドアからは、明るい部屋の灯がこぼれる。俯いた顔を上げさえすれば、こちらに向いて歩いてこようとしている、フランソワーズの顔を見ることが出来る場所。顔を見るのは辛くても、そこにいれば気配は感じられるから。せめて、同じ空間にいることは感じられるから。 彼の絶望は、もう限界を超えようとしている。 それでもなお、必死に、自分の心を守ろうと、昔に思いを巡らせるジョー。 「しっかりしろ。独りには子供の頃から慣れてるはずじゃないか」 なんて悲しいセリフ。 「ずっと一人だったはずだ」 このあたたかい場所で、キミと、みんなと過ごした時間なんて、僕の人生の中ではほんの一瞬だったもの。ずっと独りだった。長い長い時間、そうだった。だから、耐えられるはず。キミも、仲間もいなかった、あの時間に戻るだけ。また元に戻るだけだ。大丈夫。僕は、それに慣れている。 そう必死に自分に言い聞かせるジョー。健気すぎます！それでいて、涙も見せないジョー。もう、いじらしくて。私の方が泣いてしまいました〜！！ 突然、轟音とともに動き出した航空機。ただ驚くジョー。何が起こった？その状況を、咄嗟には呑み込むことが出来ない。 ただ、その航空機が自分と同じ時間の中にいる事だけはわかる。 だから、必死で呼びかけた。聞こえるわけなどないのに。 けれど、あっという間に航空機は飛んでいってしまった。また、自分だけ取り残されたのか？再び襲い掛かる絶望。 でも、その時――― 「ジョー？」 この声・・・？ 元に戻った？凍った時間が、融けたのか？ 幻覚じゃない？本当に、元に戻った？ 「どうしたの？大声出して」 優しい声がそういう。 大声？ キミは、僕の叫びを聞きつけて、心配してきてくれたのか？ ということは・・・僕は、キミと同じ時間の中にいるのか？ 何も言葉にならない。声さえ出ない。 心に広がる安堵の思い。そして・・・。 「ああ・・・」 この時の、ジョーの表情の変化！！潤む瞳が、あまりに切なくて。 踏みしめるように、一歩一歩、フランソワーズに近づいて行くジョー。 さっきみたいに駆け寄って、もし彼女が消えてしまったら。また、幻覚だったら。 今度同じことがあったら、僕は、もう決して立ち上がることは出来ない。 そんな思いが、まだ彼の中にあったはず。 手の届くところまで近づいて、そして激しい抱擁。 幻覚じゃなかった。よかった・・・。ちゃんと、キミはここにいる。僕の腕の中に。 フランソワーズは苦しくてもがいているのに、絶対に離すまいと、ますます強く抱きしめるジョー。 ジョーの涙。テレビでは、ラストシーンだけでしか見られなかったけれど、あの時、亜麻色の髪に顔を埋めて、こっそり泣いたでしょう。きっと、フランソワーズにも気づかれないくらい、こっそりとね。 そのラスト。 故障が直った、と思っていたけれど、そうじゃなかった。最初から、自然に元に戻ることがわかっていたなんて。 一人取り越し苦労をしたことに、ただ高笑いするしかないジョー。 でも―――この辛い１ヶ月で気づいたことはたくさんある。 ここでこうしていられる事の幸せ。僕は今、独りじゃない。 そのことを噛み締めるジョーの微笑みと涙が、。胸に迫ります。 |
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