| おぼつかな花は心の春にのみ いづれの年かうかれ初めけん 待つにより散らぬ心を山桜 咲きなば花の思ひ知らなん 春風の花を散らすと見る夢は さめても胸のさわぐなりけり あくがるる心はさてもやまざくら 散りなんのちや身にかへるべき 花を見る心はよそに隔たりて 身につきたるは君がおもかげ いまさらに春を忘るる花もあらじ やすく待ちつつ今日も暮らさん 花見ればそのいはれとはなけれども 心のうちぞ苦しかりける 花見にと群れつつ人の来るのみぞ あたら桜のとがにはありける 散る花を惜しむ心やとどまりて また来ん春のたねになるべき 山寒み花咲くべくもなかりけり あまりかねてもたづね来にける 願はくは花のしたにて春死なん そのきさらぎの望月の頃 思ひ出でに何をかせましこの春の 花待ちつけぬわが身なりせば 木のもとの花に今宵は埋もれて あかぬ梢を思ひあかさん 葉隠れに散りとどまれる花のみぞ 忍びし人に逢ふ心地する |
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| （西行 『山家集』） |