パタン、とドアが閉まる。
その音に、ふわふわと夢の中を浮かんでいた意識が、体に舞い戻った。
―――ここは、どこ？
うっすらと開けたフランソワーズの目に、見慣れた白い天井が映る。
「気がついたか？」
心配そうに覗き込む、アイスグレーの瞳。
（私の・・・部屋？）
身じろぎしようとした。けれど無駄だった。まるで自分の体ではないように重い。
「アルベルト・・・？」
柔らかな灰色の光。戦闘中に見せる彼の眼差しとは別人だ。
ジョーの茶色の瞳の優しさとも違う。けれど・・・どうして？
「どうだ？」
「ええ、大丈夫」
ほっと口元を緩めながら、たしなめるようにアルベルトは言った。
「心配したぞ。あんな無茶なこと・・・寿命が５年は縮まった」
（無茶なこと？）
私は何をした？とフランソワーズはぼんやりとした記憶を手繰り寄せる。
真っ赤な炎。鼻につく硝煙。そして――ジョーの叫び声。
（あの時、私は・・・）
そう、確かに無茶だったかもしれない。でも・・・
「・・・あ、あの・・・アルベルト・・・」
「ん？」
口ごもるフランソワーズに、彼は小さく笑って頷いた。
「ああ、大丈夫だ」
「怪我・・・は？」
「全然。今、博士と研究室にいる」
呼んで来よう、と彼は席を立った。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

「ジョー！聞こえてるのか？」
研究室の隅。ジョーは、俯き加減で棚のファイルを整理している。
ギルモア博士は、すぐに作業の手を止めて、彼女の部屋へ向かったというのに。
長い前髪が、表情を隠していた。こちらを振り向く気配はない。
「おい、聞こえてるのかって聞いてるんだ！」
下を向いたまま、ジョーは黙ってかすかに頷いた。 だが、その手は休めない。
「行かないのか？」
「・・・どこへ？」
やっと口をきいた。だが、素っ気無い声。取りつくしまもなかった。
「どこへって、フランソワーズの様子を見に行かないのか？」
しばらくの沈黙の後、観念したようにジョーは息を吐くと、ぼそっと呟いた。
「今、ちょっと手が離せないんだ。それに、意識が戻ったなら、もう・・・大丈夫だろう？」
おもむろに背中を向ける。そのぎこちない仕草に、アルベルトは肩をすくめた。
（・・・ へんな意地を張りやがって）
３日間、一睡もせずにそばについていたくせに。
（熱も下がって、呼吸も正常に戻った途端、俺に代わってくれ、だなんて）
ったく、世話の焼ける奴だ、とアルベルトはあきれたように首を振った。

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