| ５ 「フランソワーズ……大丈夫かい？」 私は肯定とも否定ともとれるような、曖昧な首の振り方をした。 今、私はどこにいるのかしら？ 火照った自分の身体が、まだどこか宙に浮かんでいるような、時間の流れの中を彷徨っているような、奇妙な感覚にとらわれていた。 ジョーの腕に体を預けながら、窓の外の白い月を見上げ、私は小さく吐息をついた。 あたりはすっかり夜の帳に包まれ、虫たちのコーラスと波の打ち寄せる音だけが優しく響いている。 気まぐれな夜風が涼しげにカーテンを揺らした。 その陰から、月の光を浴びて緑と金色に輝く羽根のようなものが迷い込んできた。 蝶は私たちの周りをふわふわと漂っていたが、しばらくしてまた風に乗って消えていった。 「フランソワーズ…」 まだ金色の軌跡が残っているかのように窓の外を見つめていたジョーは、耳元で囁くように私の名を呼んだ。 「なあに、ジョー？」 急に真面目な顔をして、まるで厳かな儀式の手順であるかのように、そっと私の髪に触れた。 「どうしたの？」 「こうして、君の髪に触れたかった……」 「おかしなジョーね」 いつだってこうして触れていられるのに？と私が笑うと、真面目な顔をしたままジョーは言った。 「……君が、今ここにいることを確かめたかったからかな」 「ちゃんとここにいるわ」 「見かけによらずお転婆だからね。こうやって捕まえとかなきゃ……」 背後から抱きしめ、私の胸の前でしっかりと腕を組み、ジョーはそっとうなじに口づけた。 火傷しそうなほど熱い唇……。 「ジョー…？」 そう、あの時―――私を狙った敵を倒し、駆け寄ってきた時のジョーの目を思い出した。 大した怪我ではなかったのに、００９の表情が、ほんの一瞬、普段のジョーの顔に戻っていた。 私は、いつもそれを見てから後悔する。 『君はジョーの力にも弱点にもなる』 いつだったかハインリヒに言われたことがある。 無理するな、と００４は彼なりに私を気遣ってくれている。 でも彼の言葉を思い出すのも、いつも事がおこってしまってからだった。 ００３としての私が役目を果たすためには、女の子であることや、攻撃能力が高くないなんてことは、何の意味もない。 だから、ジョーは私の行動を責めたりしない。戦場での００９は、仲間の中でそのことを一番わかってくれている。だから心配する素振りも滅多に見せない。でも……。 「ごめんなさい、ジョー、私……」 振り返ろうとした私を、彼は黙ったまま包み込んだ。 |