 人は、悪を超える何かを持っている この世には、男がいて、女がいて、そして子供がいる。人の世界はそうやって成り立っている。それを象徴するかのような３つの脳。それがＢＧの本体―――純粋なる悪。あんなちっぽけな３つの脳が？甦るこれまでの悲しい闘い。あんなもののために、今まで・・・。あんなものが、人の世の争いを、憎しみを生み出し、煽り増幅してきたのか？そうじゃない。ほんの少し刺激するだけで、人は勝手に破滅への道をたどっていく。教えなくても争いをする。人間の本性は、悪だから。だからお前たちの闘いは無駄だ。ＢＧを滅ぼすことなど出来はしない。人間すべて、滅ぼさなくちゃ。人の心の中にある悪こそが、その正体なのだから。すべての悲劇は人がいるために起こる。ちっぽけな善だと信じて無駄な抵抗をするお前も、その愚かな人間のひとりでしかない。人がいる限り、ＢＧは滅びない。 確かに、人の本性は悪かもしれない。でも、でもそれだけじゃない。人は悪を越える何かを持っている。僕は、それを見てきた。絶対に信じられる何かを。辛く長い闘いを通して。仲間。そうだ、心から信じられる仲間達がいる。そして――― 「幻だよ」 「違うっ！！！」 あのやさしいぬくもりは、幻なんかじゃない。自分の手の中に確かにあった。そして彼女の澄んだ瞳の中に僕は見つけた。大切なもの。悪を越える何か。絶対に信じられるものを。それを守りたい。だから――― 「だから、僕は戦う！！」 そうきっぱりと叫んで、銃を放つジョー。この瞬間が、今回のヨミ篇、いや、このアニメシリーズのクライマックス。ジョーにこのセリフを、この場面でフラソワーズを回想するシーン付きで言わせるために、これまでの４７話があったのです。しかも、フランソワーズが手を握った時じゃなく、自分の方から握り締めて彼女がジョーを見つめたシーンだったというのがポイント。ああ、長い長い道程だった；； 闘うことに躊躇いを感じ続けてきた。でも、今はっきりとわかった。自分を支えてきたもの。人は争い続けるしかないのかと絶望する自分に、未来を信じさせてくれたもの。勇気を与えてくれたもの。それが何であったか。「だから、僕は闘う！」それを守るために。その思いは、たとえこの体が滅びようとも、決して消えることはない。仲間が、人の中にある悪を越える何かが、この思いを受け継いでくれる。静かにそう言うジョーの表情は穏やかで。微笑みさえ浮かべて。 一方、原作のジョーは、魔人像の中で、反論することが出来なかった。人間たちの悪が、醜い欲望が「黒い幽霊』を作り上げたのだ、と衝撃の事実を突きつけられて、言葉を失っていた。でも、それでも倒さなければならない。『黒い幽霊』といっしょに死ぬ覚悟を決めて、闘い続ける。その悲愴な強さ。「ナカマ？キミノナカマハモウヒトリモイナイ」と告げられ、その覚悟さえも打ち砕かれそうになった時、形勢を一挙に逆転させた００２の脳波通信。衝撃を受けたかのように爆発する魔人像。結ばれる手。しかし―――。この流れだからこそ、漫画では、次のシーンがクライマックスになるんですよね。 だけど、アニメは違う。「だから、僕は闘う！」この言葉をジョーが脳に向かって叫んだ時、勝負はすでについてしまった。仲間の到着を待つことなく。「無駄だ！」「終わりだ！」もはや空しく響く、ＢＧの言葉。そして爆発する魔人像。静かに宇宙空間に投げ出された００９の手を、誰かが掴む。００２だった。００９は驚き、そして仲間たちの無事に安堵する。けれど―――２人は落ちていく。地球へと向かって。死ぬときは、一緒だ。仲間の誰もがそう思っている。その皆の思いを抱いて、００２はここまで助けに来た。ひとりでは死なせない。ジェット！仲間なんだから。ジョー、きみはどこに落ちたい？―――ＢＧＭなしのこの落下シーンは、アニメ「地下帝国ヨミ篇」の、静かな、静かな美しい幕引きなのです。 そして、フランソワーズの悲痛な叫び。その目に、燃え落ちていくジョーの姿が見えたのか。それとも大気を切り裂く轟音が聞こえたのか。でも私は、意に反して無理やり与えられ、彼女自身を苛みつづけた能力によってではなく、彼女はその心で感じたのだと思いたい。あの時と同じように、限りなく優しい微笑を浮かべて、ジェットの問いに答えるジョーの声を。２人で星に祈ったあの願いは、果たして叶えられるのか―――？ 希望とは、未来を信じること。それは人だからできる。人の本質は悪かもしれない。でも、希望を抱くことが、人間の最大の長所。ＢＧの本体でさえもそれを認めてしまった。くだらぬ、といいつつも、「人は希望をもつもの」であると。希望は、未来を、自分を、人を信じるからこそ抱けるもの。人の中にある悪を越える何か。絶対に信じる事の出来る何か。ジョーは、古代君のようにストレートに「あの言葉」を口にはしなかった。今までの辛い闘いを考えれば、軽々しく口にしても、ただ陳腐になるだけ。もしかしたら、そんな言葉、思いつきさえしていないのかもしれない。もしそうなら、ますます愛しいわ、ジョー！でも、そんな言葉におきかえなくても、その｢何か」が何であるかを、彼はちゃんと感じている。わかっている。心の中に、そのあたたかな根拠＝記憶をしっかりと抱いて。 「あ、流れ星！」 人は、星に願いをこめて祈る。世界に戦争がなくなりますように。世界中の人が、なかよく平和で暮らせますように、と今までどれだけ多くの人が願ってきただろう。だけど――― なぜ、戦争をするの？なぜ殺しあうの？なぜ平和でいられないの？今の私は、無邪気にそう尋ねた子供の頃のように気軽には、その問いを口に出来なくなっている。世界の歴史を、人の歴史を、この社会の仕組みを知れば知るほど、その中に多くの矛盾と困難を抱え、それが複雑に絡み合っていることに絶望的な思いすら感じているから。すべてを、圧倒的な力で解決してくれる正義のヒーローなど、現実には決して登場はしない。 でも―――それでも願っている。たぶん、原作６巻のラストシーンに出会ったときから、ずっと。もちろん、その時以上に強く。 世界に戦争がなくなりますように。世界中の人が、なかよく平和で暮らせますように。 この世界から、私たちの手で戦争をなくせますように、と。 とはいっても、そのために、できること、何があるでしょう？途方もないですよね。思っていても、結局は何も出来ない。でも――― この１年の放送の中で、特に印象的だったシーン。その多くの場面に共通していたもの。それは手の描写なんです。 ジョーが仲間に出会った瞬間、空中でジェットが握った手。仲間とともに行くことを選び、００１の差し出した指をそっと握ったジョーの手。生きている間は触れ合うことも出来なかった００１０たち。亡骸の手がそっと重ねられていた。アポロンの頬を愛しげに撫でるアルテミスの白い手。凍った時間の中で、フランソワーズの頬にジョーが伸ばした手。触れたいのに触れることが出来ない、その哀しみと孤独。「闘いを終わりにしたい」とドルフィン号の中でジョーがつぶやいた時、「終わるわ、きっと」と言って、ビーナとヘレンがしっかりと取り合った手。ビーナに差し出した「あたたかい」００４の手。一番臆病だった、でも最後には勇敢に闘ったアフロ。彼女をひとりで逝かせまいと、最後の力を振り絞って懸命にアフロに差し伸べるダフネとダイナの手。届かなかった３人の手を、そっと重ねる００ナンバーたちの手。ジョーとフランソワーズの万感を込めた手の抱擁。打ちひしがれるフランソワーズの肩を黙ったまま抱いた、アルベルトの手。そして最後に、宇宙空間でジョーの手を掴んだジェットの手。 言葉は人間にとって、とても大切なもの。そしてとても便利な道具。でも、言葉にするからこそ伝わらないものもある。自分でさえ、自分の思いをうまく言葉にすることが難しいのに。そんな言葉は、人を傷つける凶器にだってなる。 だから。時には、言葉のかわりにそっと手をとって、優しく自分の思いを伝えたら。ぬくもりを確かめ合って、自分たちが生きていること、生かされていることを感じられたら。みんなが、そうやってお互いのぬくもりを、じかに確かめうことができたら――― 強い思いが生み出す可能性を信じる、というジョーの言葉が胸に響きます。 ―――これは、終わり。そして始まり。 星空をバックに、石ノ森先生のお名前が浮かび上がった時、とうとう涙が溢れてしまいました。（ヨミ最終話のコメントにぜひ引用したいと、ずっと思っていた石ノ森先生のお言葉があるのですけれど、それがどこに書いてあったのかがわからなくて、見つかりません〜！ごめんなさい。また探しておきます；；） で、蛇足。 ジョーのあの言葉。実は大きな矛盾を抱えているんですね。その矛盾に、彼らが直面させられるのが、いよいよ登場のＧＯＤ’Ｓ ＷＡＲかな〜。ああ、考えただけでもわくわくしますね！４８話かけて、やっと一人前の男になったジョーは、いったいどんなことをしてくれるのかしら♪あら、杉本博士！来週、原画参加ですか？だって、リュック背負って驚いていた予告篇のジョー、杉本ジョーでしょ？今年のバレンタインや誕生日のフォークジョーにそっくり；；そういえば、色っぽく微笑んでいたフランちゃんも、Ａｌｂｕｍのセクシーセーターフランちゃんやパジャマフランちゃんに似てるような気がするんだけど・・・。 とにかく。何とか無事（なのか？）に、ヨミ篇まで終わりました。で、完結篇。さあ！これからは心おきなく頑張るのよっ、ジョー！！ ・・・って、２話しかないけど。 |
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