―――――ふわぁああ、眠たいや。

そんなことを考えながら、欠伸を噛み殺す。

退屈だ！

なんて言える訳がない。舞台の上で繰り広げられる幻想的な精霊達の世界に没頭し、ヒロインの切ない台詞に共鳴するように白く細い指をしっかりと組み、そして幾度も悩ましげな溜息を落とすフランソワーズ。その端正な横顔の向こうには、いい年齢のかつての名優が周囲を気にせずにひたすら涙を流している。

こんなことなら少し位、眠っておけば良かったな。

偶然とはいえ、フランソワーズとほぼ同じタイミングで溜息をつく。ジョーは拘束された時間の長さに、そしてフランソワーズは舞台の素晴らしさに。

ジョーの溜息に気づいたフランソワーズは視線をわずかに舞台から逸らすと、こちらを向いてニコリと微笑む。舞台はまさにクライマックスを迎えており、フランソワーズ自身の感情も昂ぶっているのか、その大きな蒼い瞳は透明な涙で潤んでみえた。

いつもの可憐な笑顔にどうしようもないほど惹かれてしまう自分。
幾度も何時も。繰り返し、飽きることなく。そして、これからもずっと。

「素敵な舞台ね…来てよかったわ」

柔らかい花びらのような唇をそっと僕の耳元に近づけると、触れるか触れないかの距離で君はそっと囁く。かすかに熱い吐息が耳の繊細な部分を刺激し、全身にくすぐったいような魅惑的な感覚が走る。それに呼応するが如く、脳裏にはとろりとした甘い蜂蜜のような記憶が蘇ってくる。

――――僕達だけの秘密…

「うん、素敵だね」

フランソワーズの温もりが自分から離れようとする寸前、僕は顔を寄せると、君のためだけの特別なトーンで意味深な言葉を囁き返す。そして、軽く耳元にキス――――微かに思い出される君の肌の柔らかさ、まだ腕に残る甘美な感触。

「！？」

驚いたように大きな瞳を見開くフランソワーズ。

「しーっ」

と人差し指を立てて、何かを言いかけようとする唇を塞ぐ。
…芝居はまだ終わっていないからね。

ニコリと笑う僕。

ちょっとだけ怒ったように顔を逸らし、周囲を気にするように急いで前に向き直る君。柔らかなラインを描く頬をほんのり桃色に染めたまま、舞台の上で繰り広げられる幻想的な世界へと再び没頭しようとする懸命な姿が可愛い。

――――だって、君のせいだから。

「たまには息抜きでもしてきたらよいじゃろう」

と、ギルモア博士が提案してくれた二人だけの旅行…いや、ミッションと言うべきか。ロンドン在住のグレートに防護服の代替品を届けるついでにロンドンの街並みを散策しておいで、と。たまには老人や赤ん坊抜きで楽しむべきじゃ、と僕の心を察するような博士の配慮にどれだけ感謝したことだろう。そして、どれだけこの旅行を楽しみにしていたことか！

いつもの日常から離れ、誰にも束縛されない場所で普通の恋人同士でありたい、そんな密かな願望。それが、この旅で実現するはずだったのに、…なのに…。

「グレートも一緒にどう？わたし、ロンドンは初めてなのよ。こうやって会うのも久しぶりだし、ゆっくり話したいわ」

まさかのフランソワーズの提案で、到着した日も次の日も…そしてその次の日もグレートと一緒に行動することとなってしまった。繰り返される秘密の溜息。

大英国博物館やロンドン塔、グレートは思いつくだけの観光名所へ僕らを案内し、時には珍エピソードの数々を披露する名ガイド役としてフランソワーズの笑いを誘った。実際、久々に会うグレートと過ごす時間は楽しいものだったし、僕自身もこんな風に平和な日々を満喫するのは嫌じゃなかった。ただ……滞在期間はあと残り3日、もしかしたらずっとこのまま、グレートと3人で名所巡りをするハメになるのだろうかと不安が襲う。…あ〜あ、フランソワーズにも困ったもんだ。

………ま、さすがに夜は別だけど。

チラリと様子を伺うようにフランソワーズの方に目をやるが、相変わらず舞台に夢中といった具合だ。…まるで先ほどの出来事なんて、何でもなかったのように。

ツマンナイ…な。

僕の苦悩はそれだけではなく、いつもより素っ気ないフランソワーズの態度も気になっていた。まだ肌を重ねて日が浅いもの、二人きりの時はとびきり極上な甘い時間を過ごしているというのに、だけど仲間と一緒の時や外出時はそんな素振りさえ見せない君。

まるで以前の僕達のまま。
触れられるようで触れられない、何かしらの距離を保ったような微妙な関係。

少し前までは、フランソワーズの視線の先にあるのは常で自分でありたいと切望していたのに、その信じられないような幸運を手に入れた途端…それ以上を望むなんて…。フランソワーズ、君はこんなに欲張りな僕を笑うかい？

声にならない切なげな溜息をまた落とす。
同時に一斉に割れるばかりの拍手が劇場内に響く。

「！？」

それは、雑念に囚われた故にストーリーを追うのを放棄した劇の幕が下りる音。周囲の人は立ち上がって、長時間に亘る熱演を称える拍手を惜しみなくおくる。グレートに至っては両手を高く上げ、興奮冷め止まぬといった感じである。フランソワーズもグレート同様に、興奮した眼差しで舞台上のヒロインを称えて拍手し続ける。睫に宿る透明な輝きが感動の深さをただ物語っていた。


◇　◆　◇　◆　◇　◆　◇　◆


「なんて素敵だったのかしら、ね？」

一通りのアンコールも収まり、動き出す周囲の波に押されるように会場の出口へ向う僕の腕に軽く手を添えると、輝くような笑顔で話しかけてくるフランソワーズ。その無邪気な表情に、胸の中に燻っていた様々な感情が洗い流されていくようだった。

「…まいったな」
「え？」
「ううん、なんでもない。おもしろかった？」
「ええ、勿論よ。ジョーこそ、おもしろかった？」
「うーん、言うならちょっと複雑かな」
「ええ？」

きょとんと首を傾げる表情が可愛くて、思わず引き寄せようとする瞬間、後ろから来たグレートが熱弁を振いだす。

「ジョーよ、我が国で今、一番人気のある公演の最終日だ。その出来栄えは如何なものだったかな」

ちょっと気取ったようにネクタイを正すグレートに悪いなと思いつつも、違和感のない程度に話を合わせる僕だった。

「有難う、グレート。今夜は楽しかったよ」
「何だかそっけないな」
「ふふ。気にしないで、グレート。ジョーったら、バレエの公演を観に行ってもいつもこうなのよ」
「古めかしいブリティッシュ英語は苦手なんだ…」
「なんたること！芸術に対する認識を深めてみてはいかがかね、我輩のように」
「えっ、勘弁してよ、グレート」
「ははは」

気がつくと腕に添えてあった細い手はなく、少し離れた距離を保ちながら歩くフランソワーズがいた。また…だ。いつもと変わらない、「みんなのフランソワーズ」になっているのが少し寂しいような、そう考えてしまう自分が情けないような、…複雑なキモチだ。

「ジョー？」
「あ？ああ、行こうか」

やっとのことで出口に辿り着き、場外へと向かおうとしたその瞬間、グレートが慌てたように僕らを呼び止める。

「諸君、残念だが我輩はここで失礼させてもらうよ」
「ええ？グレート、どういうことなの？食事も一緒にって言ってたじゃない」
「ははは、実は先ほどのヒロインと約束が入ってな…悪いが今回は…」
「まぁ！…それなら仕方ないわね」
「すまんね…」と、少し照れたように頭を掻くグレート。
「しかし、グレートもやるなぁ…主演女優を口説くなんて」
「はは、昔からの知り合いであるからして…」

いきなりの展開に戸惑いつつも、やはり嬉しい気持ちが先行してしまう。

「あ、ちょっと待ってて、パンフレット…やっぱり欲しくなっちゃった」

と、会場の片隅で販売しているパンフレットを購入する列に加わるべく、フランソワーズは小走りで駆け出していく。その様子を見ながらグレートは僕を手招きをして呼び寄せると、こっそりとある事を告げる。

『恋人達の時間を邪魔するほどヤボじゃないのでな。ああ、心配なさんな。レストランは最初から二人の名前で予約してるから』
『グレート！』
『予約まで少し時間があるな…ああ、そうだ。レストランの近くの河岸にいい公園がある…地元のデートスポットだがね』
『ありがとう、グレート』
『我輩からのささやかなプレゼントであるよ』

軽くウインクすると、バンッと僕の背中を思い切り叩く。

痛っ。

暫くすると、綺麗に包装されたパンフレットを満足そうに抱えたまま、フランソワーズが戻ってきた。

「お待たせっ」

グレートは姿勢を正すようにフランソワーズに向き合うと、

「よい滞在を、マドモアゼル」

と、恭しく丁寧なお辞儀をする。

「いろいろと有難う。とても楽しかったわ…また、また来るから」
「いろいろと有難う。グレート…本当に有難う」と、僕も心から礼を言う。
「なんの！君達二人ならいつでの歓迎だよ。では、失敬」

軽いお辞儀をすると、グレートはクルリと回り、楽屋の方向へと歩き出す。僕はやや寂しげそうにグレートの後姿を見送るフランソワーズの肩に軽く手を乗せて、その顔を覗き込んだ。

「また、いつでも会えるよ」
「そうよね、でも…ううん、また会えるしね」
「ああ、ただ次回は日本でだろうけどさ」
「ええ。…そういえば、あなた達、さっきは何を楽しそうに話していたの？」
「…え〜っと、劇の感想と…そう、レストランまでの道のりを教えてくれたんだ」
「ふ〜ん？」
「ほ、ほら、行こう？もう腹ペコだよ」

上目遣いでフランソワーズの反応を請うような僕をくすっと笑うと、君は軽く頷く。

「そうね、私もお腹ぺこぺこだわ」
「ははは、…おいで」

笑いながら、そっと左手をフランソワーズへと差し出す。

「…ええ」

嫋やかに、やや恥らうように重ねられる手の指を絡めとると、お互いの温もりをゆっくりと確かめるように僕達は歩き出した。


◇　◆　◇　◆　◇　◆　◇　◆


「やっと二人きりだね」
「え？」

曇がかった闇夜の隙間から覗く月の光が僕らを優しく包む。レストランへと向かう途中、グレートが教えてくれた公園で少しだけ足を止めてみる。既に時計は9時を廻っており、さすがにこの時間帯となると周囲に佇むのは恋人同士くらいだ。…僕達を含め。

「二人きりって…いつも二人じゃない」

少しきょとんとしたような表情が可愛くて、繋いでいないほうの手をフランソワーズの桃色の頬に添えると、僕は違うよといったように顔を近づけて笑いかける。しっとりと潤んだ蒼の瞳の真ん中には幸せそうな僕の姿が映る。

「違うよ。ロンドンで…こんな風にゆっくりできるってこと」
「あ…！」

一瞬の隙を狙って、柔らかい頬に唇を寄せる。心地良い感触とふわっと香る甘い香り…昨夜は落ち着いたグリーンノート…今日は甘酸っぱいような柑橘系。それは決して飽くことのない、魅惑的な君の香り。

「ジョー…！」

唇をほんの少しだけ離し、僕らは熱い吐息がかかる距離のまま。とても恥ずかしそうに瞼を伏せるフランソワーズの頬を伝い、優しく撫でるようにして顎に手をかけると、軽く…でもやや強引に唇を開かせる。何かを言おうとするフランソワーズだったが、…今はダメだよ。

艶やかなピンクの唇に僕のをそっと重ねる。

「…んっ…」

ふたつの触れ合う唇と唇の合間で僅かな微熱が生まれる。砂糖菓子のような甘美な快楽の波に応えようと、フランソワーズが熱く温んだ舌を絡めようとした瞬間、ジョーは意外にもあっさりと唇を離す。

「？？………もうっ、随分と意地悪ね」
「なんのことだい？」

…散々、じらされたからね。

正直、人が多く集まる場所でこういうことをするのは初めてだった。日本に住んでいる時は何かと人目を気にする癖がついたせいか、普通の恋人達のような無邪気な仕草をすることなんてなかった。ましてや、仲間が常に周囲をうろついているような環境じゃ、…所詮、無理というものだ。だから、その空白の時間を取り戻すかのように、二人きりになった時はいつも以上に恋人同士として過ごしてるような気がする。…閉ざされた扉の向こう側の話だけれど。

「グレートには悪いけど、…ずっとこうして二人で街を巡りたかったんだ」
「…うん」
「グレートがいるとこういうことって出来ないだろ？」
「こういうこと？」
「そ、こういうことっ」

もう一度甘いキスの洗礼。今度は少しだけ長く、お互いの想いを絡ませるように。

「ねっ？」

頬を真っ赤に染めたフランソワーズの様子を伺うと、少しだけ満足げな笑みを浮かべる僕…。躊躇うようにゆっくりと首周りに添えられた温かみに応えようと、フランソワーズの体を自分へと引き寄せる。柔らかい膨らみの感触、フランソワーズの華奢な体を全身で受け止めるように、慈しむように抱きしめた。

それは少しだけ冷え切った空気の中に存在する唯一の安らぎ。
幾つもの夜を徹して抱きしめたとしても求め止まぬ温もり。

「ばかっ…」

甘えるように首に絡めた腕に力を込めるフランソワーズ。僕は牡丹雪のように白く透明な肌を縁取る亜麻色の髪を軽くひと房ほど手で掬ってみる。そして、重力を感じさせない柔らかいその房を持ち上げるとふわりと空に放つ。それは月光を浴びて、幻想的な輝きを四方に放った。

「フランソワーズはこういうの嫌？」

前から聞いてみたかった、…核心にそっと触れてみる。

「え？」
「二人きりの時は…時には大胆な君をみせてくれるのに…皆と一緒の時は君が手の届かない存在になったようで…」

―――――寂しいんだ。二人の夜はあれだけ愛し合ってるというのに。だから、ますますこうやって自分が手に入れた幸せを確認したくなる。嫌というほど。

「たとえば、グレートと一緒の時は手さえ繋いでくれない。…それに、いつも僕から手を差し伸べるだけ」
「そ、それはっ」
「だから…時々不安になるよ…僕は…」

自分の言葉を遮るようにフランソワーズの亜麻色の髪へと顔を埋める。
今の表情を見られたくなくて…僕はきっと情けない顔をしている…。

「わたし…わたしも…自信がないのよ」

フランソワーズは一つ一つ言葉を選ぶようにゆっくりと呟く。

「本当に夢みたい。手を伸ばせば貴方がいて、…そしてこんな風に触れ合うことができるなんて」
「夢…？もし夢だとしたら、甘美過ぎるほどの極上の夢だね」
「もう、ジョーったら！だから…不安になるの。本当にこれでいいのかって」
「…フランソワーズ？」
「だって、あなたが…わたしのことを好きになるなんて…夢みたいだわ」

泣き出すのではないかと思えるほど切なく、不安げな呟きに思わず顔を上げる。

…フランソワーズ…！

その表情を覗き込むと、そっと伏せられた視線を捉えるように、息が絡めあう距離で再びその瞳を促す。僕を見て。君だけのために囁くから。

「大好き…だよ」
「ホントに？」
「フランソワーズ…視線を逸らさないで」
「……………」
「何度でもいうよ、君が…」

―――好きだ。

「うん…」
「…本当に？」
「ええ…ジョー、嬉しい…！」
「本当に分かってる？」
「ジョー！」
「僕は…君だけの僕だから…これも、これも、そしてこれも」

―――君だけのものだから…

愛しい君の頬、唇、そして涙ぐんだ瞳に優しく口づけする。それは僕だけの印、そして誓い―――変わらぬ想い。

「…まだ夢みたい？」
「……うん……」フランソワーズの瞳が大きく揺れる。
「まだ信じられないの…？」
「あ、違うの。信じてるわ、あなたのこと…ただ、信じられないのは…」

まるで星空の輝きと眩さすべてを編み上げたような二人だけの世界…、お互いの瞳が映し出す無二の半身の姿に惹き込まれていくような錯覚…そして現実。

「好きよ…」

照れた表情を隠すように軽く視線を逸らすと、フランソワーズはそのまま俯いてジョーの胸に顔を埋める。たった一言だったが、その一言でジョーは心が満たされるような幸せな感覚に酔う。

（…まいったな、たった一言で…しっかりしろ、島村ジョー！）

無言のまま、お互いを支えるように抱き合っていた二人だったが、仔犬の目をしたジョーがふと思いついたように、イタズラっぽくこっそりと耳元で囁く。

「…だったら……キスして」
「え？」
「僕…まだ君からのキス…もらってないよ」
「それはっ…」

弾けるようにジョーから体を離そうとするフランソワーズ。そんなフランソワーズの腰に両腕をまわし、しっかりと捉えるジョー…逃げられない。

「だって…こんな所だし…」
「大丈夫、誰も見てないから♪」
「え？だって、ココ…人の気配だって…ほら…」
「フランソワーズ？」
「あ、あのっ…」
「……フラン？」

抗えない瞳…ジョーの強い想いに応えるべく、フランソワーズはほんの少しだけ背伸びをし、躊躇うように…でも、可愛らしいキスをそっとジョーの唇へ届ける。狂喜にも似た極上の悦びが心を満たすが、それも一瞬のこと。

足らないよ…！

「もう一度…フラン…」

フランソワーズは恥ずかしそうにコクンと頷くと、求められるままに唇を重ねる。……その可憐な仕草に僕はつい嬉しくなって、いつものように甘くて脳裏をかき乱すような恋人同士のキスへと君を誘う。

―――でも、ほんの少しだけ。

さっきみたいに意地悪をしてる訳じゃないんだけど、折角、グレートがレストランの予約を取ってくれたんだ、もう行かないと間に合わない。…だから、一瞬の情熱を楽しむと、余韻を持たせたまま唇を離す。惜しいけど…ま、僕らの夜は始まったばかりだしね。

「もう、ジョーったら」
「ご、ごめん、フランソワーズ！」
「ジョーの意地悪っ、知らないっ！」
「あ、フランソワーズ」

少し怒ったように表情を歪めたかと思うと、君は腕の中からすり抜けていく。夜空を駆ける秋風のように。颯爽と去り行こうとする君に慌てて手を伸ばし、許しを乞う僕。だけど、伸ばした手は空に留まったまま、…僕はなすべくもなく握り締めるだけ。

「だって、レストランの予約…あ！」

くるりと振り向いたフランソワーズは悪戯な笑みを浮かべると、

「嘘、お返しよ。さ、…行きましょう？」

と、とびきり甘いトーンで僕を促す。そして、目の前に差し出されたのは…闇に浮かび上がったのは…色白く華奢な手。

「…！！」

無言のまま、お互いを求め合うように握り締めた手と手、無二の存在を感じるかのように絡められた指と指。たおやかな指先から伝わるフランソワーズの鼓動。

僕らはやがてひとつの影となり、そんな僕らの行く先を月の光が優しく見守っていた。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　ｆｉｎ

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