イブ当日のスキー場はまるで芋を洗うような人込みでごった返しており、
リフト乗り場にはもはや蟻一匹入る隙間も無いほど、ぎゅうぎゅう詰めの
人の列が遥か遠くまで続いていた。
「・・・ったく！どうしてこう混雑するんだよ！！あー、気が滅入るぜ」
スノーボードを片手に最新のスノボスタイルでばっちり決めたジェットが天井を
見上げて溜め息を一つつく。
「相変わらず短気な奴だな、お前は！もう少しで乗れるんだから我慢しろ！！」
こちらもプロスキーヤー顔負けの腕前をもつハインリヒが彼なりのお洒落な
スキースーツ姿でジェットと二人、周囲の女性の注目を一身に集めていた。
「まあ！二人ともどこへ行っても、仲良しなのね！」
ピンクの上着に身体にぴったりとフィットしたした真っ白のパンツ姿の
フランソワーズが微笑みかけると二人の間の険悪なムードは一端停止した。
そういう彼女も周囲の男性の視線を一人で集めてしまっているのだが。

今度こそ、今度こそ僕はフランソワーズとリフトに乗るんだ！！
和やかな３人の側で一人苦虫を噛み潰したような顔をしているのは、言わずと知れた
島村ジョーである。ジョーがなぜこんなに不機嫌なのかというと、まず第一に
フランソワーズと二人きりで一緒に来るはずだったスキーが事前にこの
男前二人組みにばれて、彼らも一緒についてくる羽目になってしまった事である。
そしてもう一つ、このスキー場のリフトは３人乗りが原則で、彼らが今朝から
滑り始めてからまだ一度もジョーはフランソワーズと隣り合わせてリフトに乗って
いないのである。理由は明白。ジェットとハインリヒの二人が必ず彼女を真ん中に
挟んで毎回リフトに一緒に乗り込んでしまうからである。
「ジョー、どうしたの？元気がないわね」
「い、いや。そんな事ないよ！大丈夫だよ！！」
必死に作り笑顔をしてフランソワーズに微笑みかけるが、彼女を挟んで鉄壁の
ガードをしている男前二人組みにことごとく邪魔をされて、いい加減堪忍袋
の緒が切れそうになっているのを必死で押さえているジョーだった。
「お、順番が来たぞ！」
その言葉を聞いてジョーの眼の色が変わる。
もう絶対に彼らとは一緒に座らせないからな！！
意気込みとは裏腹に人の流れに押されて、いつしか彼女から遠くなっていくジョー。
ふと気がつくと、彼女はすでに男前二人組みにしっかりガードされてリフトに
乗り込んでいる姿が見えた。

ジェット！！どさくさにまぎれて彼女の肩に手を掛けるな〜！！！
ハインリヒ！！彼女のストックを持ってあげると見せかけて、彼女の手を
しっかりと握り締めるな〜！！！
そして二人とも！！彼女にそんなに密着するな〜！！！
な、なんで・・・。なんでこうなんだ・・・。
かくいうジョーはまるで相撲取りのような体型の男性二人に挟まれて、肩身の
狭い思いをしながらしばしの時を過ごさなければならなくなっていた。

ゲレンデでもジェットとハインリヒはまるでオリンピック選手のような滑りを
見せ、お客の喝采を浴びていた。そんな二人を横目で見ながら、覚えたての
ボーゲンを必死に繰り返し、転倒しながら滑り降りる自分が非常に情けなく思える
島村ジョーだった。そんな彼の側にすっと滑り込んだ一人の女性。
「ジョー、大丈夫？」
「ああ、大丈夫だよ！あの二人には全然追いつけないけど、僕なりに頑張って
少し滑れるようになったんだよ！」
「ジョー・・・」
彼女はそんなジョーをひとしきり優しく見つめた後、そっと彼の頬にキスをした。
「えっ・・・？フランソワーズ？？？」
あまりのことに呆然としている彼に向かって、フランソワーズは艶やかに微笑み
かけた。
「・・・私、一所懸命頑張っている貴方が大好きよ・・・」
消え入りそうな声で一言呟いた後、真っ赤になって滑り降りていく彼女を
見つめながら、今のは夢だったのかもしれないと思いっきり頬をつねったジョーは
その痛みを嬉しく思いながら、彼女の言葉を噛み締めていた。

その後すぐに、どこからともなく飛んできた無数の雪の玉が彼を雪まみれにしたのは
言うまでもない。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　FIN


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