「ねえ、フランソワーズ・・・」 フランソワーズの膝の上で眠っている真っ白な子猫を見下ろしながら、ジョーは声を掛けた。 「こいつ・・・自分が人間だって思ってるんじゃない？ こうやって寝てる時は可愛いんだけど」 「起きてる時だって可愛いわよ」 「それは、君の前でだけだよ」 「え？」 『知らないの？』と言いながら、ジョーはフランソワーズの隣に座った。 「君以外には、引っ掻くは噛み付くは・・・可愛い所なんて全然ないよ。ジェットなんか、そのうち皮を剥いでやるって怒ってた」 「皮を剥ぐ・・・」 フランソワーズは冗談じゃないわと子猫を抱き締めた。 ミイ。 可愛い泣き声。 「ああ、ごめんなさい。苦しかった？」 フランソワーズに喉を撫でられて、子猫は気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らした。 それを見ていたジョーは、実に気に入らなかった。 （この・・・猫かぶり・・・） フト、子猫がジョーの方を挑戦的な眼で見た。・・・そんな気がした。 「・・・フランソワーズ、喉が渇いたからお茶にしない？」 「そうね。じゃあちょっと待ってて」 フランソワーズは子猫をソファに下ろすと、リビングを出て行った。 その途端・・・ 「痛っ！！」 ジョーは慌てて手を振る。近寄ってきた子猫が、しっかりとジョーの左手に噛み付いていた。 「お前・・・」 子猫の首の後ろを掴み上げると、ジョーは子猫を睨みつけた。 「ミイミイ鳴いてて可哀相だと拾ってやったのは誰だよ。フランソワーズに逢えたのも誰のおかげだと思ってるんだよ。いいか？お前は猫なんだよ。いくら僕達と張り合ったって相手になれないんだ。もう少し自分の立場ってもんを考えて皆に好かれる猫に・・・っ痛〜！！こ・・・の・・・！！！」 ジョーの手の甲にくっきりと４本の赤い線。 子猫は背中の毛を逆立てて威嚇する。 「いい度胸してるじゃないか・・。フランソワーズが可愛がってるからと思って我慢してたけど・・・もう許さないよ！！」 今まさに、激突しようとした時。 「・・・何してるの？ジョー」 両手にトレイを持ったフランソワーズがドアを開けて立っていた。 ミャ〜。 しっかり猫撫で声で甘える子猫。 「フランソワーズ！」 ジョーはフランソワーズの手からトレイを奪うとテーブルに置き、フランソワーズを突然抱き締めた。 「ちょ・・・と・・・ジョー、変よ。どうしたの？」 「あいつに思い知らせてやる」 「・・・・・ジョー？・・・あいつって・・・あの子は猫なんだけど・・・」 「あいつは君に気がある！」 フランソワーズは、目の前が一瞬真っ暗になった。 猫に嫉妬したなんて、いくらなんでも・・・空しい・・・。 「あいつは僕にライバル意識を燃やしている」 「まさか・・・」 「あいつは君に近付く奴が気に入らないんだ。見てよ、この傷」 くっきりと残る爪跡。 「まあ・・・ひどい傷・・」 フランソワーズはジョーの手を取ると、そっと傷口に口付けた。 「フランソワーズ、ここも」 二の腕、首筋・・・至る所に噛み傷や引っ掻き傷がある。 そのひとつひとつに優しくキスするフランソワーズ。 「フランソワーズ・・・ここも」 ジョーの示したのは唇・・・。 FIN |