ドカーン・・！耳を劈く爆音に続き爆風、そして岩が落ちてきた。
「あぁっっ！」目をつぶる。―――もうだめ！

・・・？！・・・
落ちてきたはずの岩が坂道を転がり落ちていく。
「００５！」
「うんんんん・・・００３大丈夫か」
「ありがとう００５！」
「もう、終った。早く戻ろう」―――終った？作戦が？
「００３大丈夫か？なんだ今のは？」
鳥になった００７が降りてきた。
不審に思いながらドルフィン号に戻る。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　*

コックピットに戻るとそこには険悪なムードが漂っていた。
「００９！どういうつもりだ！勝手な行動は許されない！」
００４が怒鳴る。
「奴らはミサイルを持っていた。人質だって！それを・・」
普段は冷静な００８でさえ興奮して００９に詰め寄る。
「人質も助けたし、ミサイル施設も破壊した。それでいいだろ？」
「そんな問題じゃない！１つ間違ったら大変な事になる！作戦どおりになぜやらん！」
００４は００９の胸倉をつかんでにらみつける。
「実戦は作戦どおりにはいかない。やれると思ったからやった。結果オーライじゃないのか？」
クールに言い返す。
「き、貴様、何様のつもりだ！」拳が震える。
「僕はリーダーだ。最強のサイボーグ・・・なんだろ？」
ニヤリと笑う。
「何ぃ！」
バシィ！００４が殴り、倒れた００９に００２が跳びかかる。
「やめるアル！みんなやめるアルよ〜！」
誰もやめなかった。００９に対する怒りは同じだった。
「やめて！」
動きが止まる。
００９がチラと００３を見て、かすかな安堵の息を吐いた。
「お前のせいで彼女も危なかったんだぞ！００５がいてくれて助かったよ」
００７がぼやく。００５は００９をみつめて静かにうなずいた。
００７のその言葉は他のメンバーの怒りに油を注いだ。
「あっ！００９！逃げやがった！」
加速装置で一瞬にして消えた００９。
「あんのガキィ！」「ほっとけ！００２！」
皆、敵を全滅させた事などどうでもいいほどに００９に対して苛立っていた。
「彼は・・危険すぎる・・・」
００８が呟く。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　*

「敵はこちらの動きを察知しておらん・・だから・・」
博士がモニターを見ながら話を続ける。
「おい！ジョー、きいてるのか！」
部屋の後ろにふてくされ、椅子の背もたれをかかえ座っている。
「てめぇ・・」近づく００２を００４が制止する。
「おい、ジョー。２度と勝手な真似をするな。９人の命がかかってる。」
上目遣いに００４を見る。
「ハインリヒ・・。リーダーをかわってくれないか？」
「！？」ジョーが何を言いたいのか解らない。
「僕には・・むいてない・・。」「な、何をすねてやがる！甘えるな！」

少しの沈黙の後、息を吐く。そして決意したように、
「・・・わかんないんだ・・」「何？」
下を向き小さな声で答える。
「わかんないんだよ！戦い方が！」「？」
まだジョーの意図する事がわからない。その表情に気づきイラついて言葉を足す。
「・・９人で戦うって・・どうしたらいいんだよ！？」
「なにぃ？」００７が呆れた顔で叫ぶ。
「い、今更何を・・おいしっかりしてくれよ。チームで戦うって・・あ〜例えばサッカーやら野球やら・・各自の立場を各自が責任を持って・・え〜」
「・・やったことない・・」
「え？サッカーや野球だぜ！日本じゃやらないのか？じゃあ・・」
すっとんきょうな声で肩をすくめる。
「・・僕には・・・ボールがまわってこなかったから・・・」
「！！」
言葉の意味をやっと理解する。
「喧嘩も・・１人でしかやった事ない・・から・・・」
「ジョー・・・」
フランソワーズは息を呑んだ。
「・・勝手なことして悪かったよ・・・。でも・・リーダーって言われても・・わからない。
ハインリヒ・・君が指示してくれ。僕には出来ない。」
何もかもをはねつける頑なさ。
しかし、その瞳には助けを求める切羽詰ったものがみえる。

１７年間どんな生活をしてきたのか。
サッカーや野球さえも仲間にいれてもらえない。子供は時に残酷だ。
両親のいない彼に癒される場所もない。
１人過ごした毎日。やがて悪の道へ――
しかしそこで経験する裏切、密告、私刑の恐怖。
傷つかない為に心を閉ざす。
時折見せる絶望的な哀しい瞳。―――何も見ていないうつろな光
孤独でありつづける事が戦いの感を研ぎ澄まさせる。

フランソワーズは胸がつぶれそうだった。
彼は、今までいいことなんて１つもなかったと言った。
自分が想像も出来ない孤独―――。
哀しい１７年間の末にサイボーグにされ、戦いつづける宿命を負わされた。
他のメンバーはたとえＢＧに連れ去られる根拠が人生の落伍者だったとしても
過去に愛する人が、仲間がいた。すがりつける思い出があった。
誰が彼を責められる？
ちゃんと戦えだなんて・・・。

誰もかける言葉が見つからなかった。それほどまでにジョーの過去は重い。

「・・・ジョーは、ちゃんと、戦ってる・・・」
沈黙を破ったのはジェロニモだった。いぶかしげに皆が注目する。
「昨日・・敵のアジトに入る前・・ジョーは全て把握してた・・」
「ジェロニモ！」
ジョーがあわてて立ち上がる。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　*

さっきから加速装置であちこち動き回っている００９が００５の横に姿を現した。
「君が１番００３に近い。ここからまっすぐ７００ｍの岩場に彼女はいる。他のメンバーは爆発の影響がない西側だ。今なら中に入れる。敵はドルフィン号に気を取られてる。・・・やってみる！」
「００９！待て！作戦を守れ！」
「皆で危険な橋を渡らなくても、僕で十分だ。たのんだぞ！１分後だ！」
ジョーは消えた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　*

「ジョー・・」
フランソワーズの声が震える。しんと静まり返った部屋。

「ばっかやろう！」
皆がびっくりする声で００４がジョーを思い切り殴った。吹っ飛ぶジョー。
「ハインリヒ！」
フランソワーズが叫び、ジョーに駆け寄る。
壁際に倒れこんだジョーをかばうように両手で制す。
「死に場所を捜すなんざ１００年はやいんだよ！確かにお前は最強のサイボーグだ。だがな、うぬぼれるんじゃねぇ！お前に空が飛べるのかよ！変身できるのか？ミサイル持ってんのか？おまえよりすごいもんを俺たちは持ってんだ！なめてもらっちゃ困る！」
００９を殴った右手は硬く握られ震えている。
「でもな・・。その１つ１つじゃ勝てないんだよ！データはみんな向こうにある。特化した８人をまとめて、お前がその天性の戦いのカンを使ってくれなきゃ・・ミサイルだけじゃ勝てないんだ・・・」
「そうアル・・。ジョー・・みんなを信じるアルヨ。みんなの力を・・」
「戦わなくちゃいけないのはお前だけじゃない。リーダーだからって何もかもやらなくてもいいんだ。」
００８が諭すように言う。
「リーダー、リーダーってプレッシャーを与えてたのかもしれん・・・。すまなかったな・・」
００７がうなだれた。
「ジョー・・」
青い瞳から涙が零れ落ちる。
「ありがとう・・。でもね。私もサイボーグよ。目と耳の改造だからって他が生身のわけじゃないわ。この体は普通の女の子よりずっと強い。だから・・信じて・・。いろんな国、いろんな年齢のメンバーが集まってる。あなたが必要なのよ、ジョー・・・。」


「・・す、すぐに殴ればいいと・・」
００４をにらみつけるジョー。
「！！・・ジョー！？」
ジョーのにらんだ目から涙が落ちた。
自分自身、涙に驚く。泣くつもりなんかない！なんで！？
殴られ、赤くなった頬を幾筋もの涙がつたって――落ちる。
「・・・・・・」
００４がジョーの傍でしゃがみ、背中をポンと叩く。
「ジョー・・すまん・・・。」博士が肩を震わせる。
本来なら１番憎むべき博士。でもいつも１番気にかけてくれていた。
本当の父親のように。
「うぅっっ・・！」張り詰めていた糸がぷつんと切れた。
十数年間溜まっていた涙が堰を切ったように溢れ出す。
ジョ―は泣いた。子供のように。
最後に泣いたのはいつだったろう。
もうとうに心は閉ざされ、涙は凍り付いていたはずなのに。
――ばかやろう、と真剣に殴ってくれる”仲間”。
――自分を必要としてくれる”仲間”。
――がんばらなくていいと言ってくれる”仲間”。

・・・皮肉だな・・。
島村ジョーが００９になって初めてできた”仲間”。
改造は僕にとってリセットボタンだったのかもしれない。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　*

「まぁ！ジェット！だめよ！ジョーは未成年なのよ！」
「こいつが未成年です。酒は飲めません！ってタマかよ！」
「飲め！飲め、飲め！アハハハハハ！」００７は酔いが廻っている。
「ふぅ。仕方ないわね。」呆れ顔でジョーを見る。
そこには泣きはらした目で照れくさそうに笑っているあどけない少年がいた。
純粋すぎて不器用なんだと思う。
「死なないで・・・」
フランソワーズは強く思った。

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