「・・・・・ねえジョー、人って本当に生まれ変わるのかしら？ あなたは、ゴッホッ・・・あなたは、生まれ変われるって・・信じる？」 瀕死の重症を負ったフランソワ−ズは、ジョー腕の中で苦しそうに息をしていた。 「フッ、フランソワ−ズ！お願いだからあまりしゃべらないで！」 ジョーの茶色い瞳からは、何時しか涙があふれ出ていて、懸命に彼女の傷口に自分の手を添えて出血を抑えているが、人間に一番近い彼女の体はもはやなす術もなかった。 彼女は、それでも渾身の力を振り絞って、彼の頬に手をやり、そのあふれ出る涙を拭う。 ジョーはその手をそっと握り締めると 「君って人は、こんなになってまで、どうしてそんなに・・・」 その後、言葉にならずにただ抱きしめる事しか出来なかった。 「ジョー・・・・・に・げ・て・・・・・直ぐにここも、はやく・・・わ・たしは・・・」 そこまで言うと、首をかすかに横に振る。 「いやだ！いやだそんなことできない！君を置いていくぐらいなら一緒にこのまま・・・・・」 既に言葉を発する事が不可能になった彼女は、脳波回路で話し始めた。 ”ジョー私、信じてるの。又きっと生まれ変わって、あなたに会えるような気がするの。 私、ずっとあなたの事を愛していたわ・・・。 今度、もしめぐりあえたら絶対に、絶対に、あなたと一緒に生きていくわ・・・だから・・・” ”ああ勿論だ！僕も信じているよ。きっと又会える！ そして、そして、僕もずっと最初に会ったあの日から、ずっと君を愛している！” ジョーの腕に更に力が篭る。もはや助ける事など不可能に近かった。 ”・・・ありがとう。じゃあ約束ね、きっと私の事を探して。きっとよ。ああ、今とっても幸せよ！あなたに会えてよかった・・・・・” そこで回路が途切れ、彼の握っていたその細い手が、するりと地面に落ちた。 「フランソワ−ズ！！お願いだ！・・・もう一度その瞳を開けて、何かしゃべって！頼むから！」 彼女の体を何度も揺さぶってみるが、その体は、もう二度と動く事はなかった。 ”フランソワ−ズ、直ぐに僕も行くから、待っていて。 ・・・なんだかとても疲れたよ、フランソワ−ズ。 僕たちは少し休む事にしよう・・・でも心配しないで。きっと約束は守るから。 そう、僕たちの愛は、決して終わりなんてないんだ！ ただ少しの間、別々になるだけ・・・きっと又会える、きっと。” ジョーは動かなくなったフランソワ−ズの唇にそっと自分の唇を重ねると、その体を大事に大事に自分の腕の中に抱えたまま、その場を動こうとはしなかった。 ＊ がばっ！っとベットから飛び起きると彼女は大急ぎで着替えを済ませ、階段を駆け下りた。 「おはよう！ママ」 『なーに？又、寝過ごしたの？』 カップにコーヒーを注ぎながら、彼女の母親は半ば呆れたと言ったような顔をして見せた。 すると彼女は、その大きな蒼い瞳をキラキラさせて、自分の母親に抵抗した。 「違うのよ！又、あの夢を見たの・・・」 『同じよ！いつも夢のせいにするけど、そんな事だと今度の試験に合格できないわよ！』 「もうっ！それでもドクターなの？娘は夜毎へんてこな夢に悩まされているって言うのに・・・」 そこに、今度は彼女の父親が、半ば寝ぼけたような顔で現れて 『おお！私のかわいい子羊ちゃん！気分はどうだい？』 と言って彼女の事を抱きしめた。 「ぜっ不調！最悪よ・・・」 『それは大変！悩み事なら、なーんでも相談に乗るよ！ハハハッ・・・』 「悪いけどそろそろ行かなくちゃ！完全に遅刻だわ・・・」 と言いながら、彼女はそそくさとその場を立去った。 ”まったくうちのパパとママったら、まるで本気にしていないんだから・・・。私にとってはたかが夢、されど夢なのよ・・・” 『おっはよー！アニ−！そんなに息を切らして又寝坊？それともまたあの夢？』 ふと声を掛けられて振り向くと、親友のマージが笑いながら後ろから歩いてくる。 「もうマージまで・・・人をからかって！」 『ここまでくれば大丈夫よ！十分間に合うって！』 「そうじゃなくって・・・もういいわっ！」 そうこうしている内に、彼女らが通う病院の門が見えてきた。 「あーよかった！今日遅刻したらあのセクハラドクター殿にレポート提出になっちゃう！」 『そうよね！確か今度遅刻したら居残りゼミだっ！な〜んて言われていたもんねっ』 と、突然、彼女は立ち止まると、不意に後ろを振り向き首をかしげた。 『ちょっとー、どうしたの？』 「ううん、なんでもないわ・・・」 ”おかしいわ・・・・・何だかずっと、誰かに見られていたようなんだけど。そう言えば、最近感じるのよね。・・・でも、きっと気のせいよね、だって誰もいないもの・・・” 次の日も、そしてその次の日も彼女が悩まされていた”あの夢”は見ることがなかった。 が、誰かに見られているという感覚はどうしても拭う事が出来ずに、新たな悩みになっていた。 そんなある日。 いつもは、お手伝いのおばさんが食事の支度をするのだが、珍しく彼女の母親がキッチンで忙しそうに料理の支度をしていた。 「たっだいま〜」 『おかえり！丁度よかったわ、早く手を洗ってあなたも手伝って・・・』 「すっごーい！美味しそう♪」 と言いながらテーブルに置いてあるフルーツをつまみ食いすると、彼女はキッチンカウンターに備え付いている椅子にもたれ掛けた。 「ねえママ、私と同じ蒼い瞳で・・・・髪の色はそうねー、私みたいに金髪じゃなくって、亜麻色って言うのかしら、それでとっても華奢で優雅なバレリーナって知ってる？」 すると彼女の母親は呆れた顔をして 『アニ−！ママは今あなたに何ていったのかしら？早く着替えて手伝って頂戴って聞こえなかったの？それに、私がそんなことを知るわけがないでしょう！！』 「もうそんなに怒ると皺が増えるわよ・・・わかりました手を洗ってきま〜す。ところでママ、今日はお休みなの？それにこの料理すっごくない？お客様とか？』 持っていたボールをテーブルの上に置いて言う。 『ねえ先週パパが言っていた事忘れちゃったの？それとも、まったく覚えがないとか？』 ”やばいっ、何だったけ？そういえばパパが何か言っていた様な・・・” 「あの〜、もしよかったら何があるのかもう一回教えてくれたら、うれしいなーなんて・・・」 『アニ−いい事！あなた本当にまじめな話なんだけど、一度ママの病院に診察に来る？』 「あのママ、これでもお医者の卵なんですけど、怒らせちゃったのはあやまるけど・・・・・・・」 『もういいわ、今日は、マーサおば様のところにホームステイに来ている子が顔を見せに来るので、ホームパーティをしようって事になっていたのよ。・・・しょうがないわね、覚えていないんじゃ・・・』 「ああ思い出したわ！そうそう！そうだった・・・」 『もう！調子がいいんだから・・・』 そこへ 『ただいま〜！可愛い小鳥たち〜〜』 とテノールの喉を生かして鼻歌交じりで父親が帰宅し、いとも楽しげに、キッチンへはいってくる。 「お帰りなさいパパ！そうだパパなら知っているかしら？」 『おお、なんだ？何をだ！』 「あのね、バレリーナで・・・・蒼い瞳で亜麻色の髪をしていて・・・華奢なんだけどとっても優雅なの。どこかであったような気がするんだけど、どうしても思い出せないのよ・・・。名前も、そうねー、何ていったかしら？でもとっても素敵だったから絶対に有名なプリマだと思うの！」 すると暫く考えていた父親だったが 『うーんそうだなあ・・・オペラ歌手なら大体わかるんだが・・・明日をも知れない命の、儚げな女性を熱演している人でも,だいたいは、けっこういい体格なんだよハハハッッ・・・』 「あっ、そう・・・」 ”はあ〜、聞いた相手がわるかったわ・・・” 『さっきから、バレリーナがどうのって、いったいなんなの？』 「う〜ん、こんな事言ったら又、ママに叱られるかもしれないけど、この前までずーっと見ていた夢に出てくるのよ。どうも前にあったことがあるような気がするのよ、その彼女に・・・。それと、これも変なんだけどまるで自分が踊っているような錯覚があって・・・」 父と母は顔を見合わせると大笑いをはじめた。 「そっそんなに笑わなくってもいいのに・・・」 そこへ呼び鈴がなった。 『マーサおば様だわ！アニ−お願いだからお行儀よくしてよ！』 玄関のドアをあけ皆でお客様の出迎えをすると 『まあ！アニ−、とっても素敵なレディになって、この前あったのはいつだったかしら？』 「マーサおばさま、お久しぶりです！」と言って、叔母の頬にキスをする。 と、その時おばの後ろにもう一人のお客がいる事に気が付く。 『ああ、そうそう！セルジュいらっしゃい！』 アニ−と変わらないぐらいの年齢で、少し寂しげな茶色の瞳をした青年がはにかみながら立っていた。 『うちに、ホームステイする事になったセルジュよ！ 明日から我が家から大学へ通う予定になっているのよろしくねっ！』 「あっ・・・！」 ”なに？何なの？この緊張感と言うか、私いったいどうしてしまったのかしら？ まるで金縛りに会ってしまったようだわ・・・” 『今日はお招きいただいて有難うございます。』 と、一瞬、そのセルジュと言う青年と目が合ってしまうと、なぜかその瞳から目が離せなくなってしまった。 とてつもなく広がるなぜか切ない感情を、自分でもわかりすぎるぐらい感じていたのだ。 * ”ジョー約束ね！きっと私の事を探して・・・・・・きっとよ。” 「う〜ん熱い、ママお水を頂戴！苦しい〜！・・・・・逃げてっ、ジョー！！！」 と、自分の叫び声にも似た寝言で目が覚めたアニ−は起き上がってから暫く呆然としていた。 ”ジョー？誰・・・違うわ。あれは、あれはセルジュよ！どう考えてもあの瞳は。でもどうして？私、ジョーって呼んでいたわ・・・・・” そんな夢に悩まされながらも、今日もいつものように実習している病院へ出かけていた。 ”さあ！気を取り直してしっかりしなければ・・・ 今日は退院した子供が診察に来る日で私がカウンセリングをする日よね・・・” コミュニティールームに入ると、直ぐに顔見知りの少年が駆け寄ってきた。 『アニ−！僕ねえ、ちゃんと約束守って学校へも行けるようになったんだよ！』 「テリ−！ワアッ少し重くなった？」 と言いながら少年を抱き上げると、退院してからの彼の日常の様子を聞く事にした。 するとなぜか後ろから強い視線が感じられ、不意にドアの方を振り向くが誰もいない・・・ ”・・・っえ？まただわ、誰かに見られている？いいえだれもいない、私本当におかしくなってしまったのかしら？” 『ねえアニ−、アニ−ってば・・・』 「あっごめんごめん！今ね、私お腹鳴ったの、聞こえなかったかしら？」 笑いながら首を振っている少年、とても心の病を抱えているとは思えない笑顔をしていた。 そんな二人の様子をそっと見守っている人物がいた。 見られているのは、決して錯覚ではなかったのだ・・・ ”フランソワ−ズ、こうしていると、まるであの時の僕たちの事を思い出すね・・・ 君はまだ気づいては、いないんだね・・・でも君のやさしさはあのころのままだよ” 『あっお兄ちゃんだ！』 と少年が叫びながらドアをあけると、そこには、先日初めて会ったばかりのあの青年が立っていた。 『テリ−！すっかり元気になったみたいだなあ』 そう言って、少年のことを抱き上げるのを眺めながら、 「え？セルジュ？でもお兄ちゃんて、確かテリ−は一人っ子って聞いていたけど』 『やあ！この間はご馳走様、・・・・・君、ここのドクターだったんだね！』 「あっいえ・・・・・まだ見習い期間中だけど・・・」 不信そうな顔をしていた彼女に気づく。 『ああ、彼と僕はれっきとした兄弟なんだ、両親が離婚して、こいつはお袋に引き取られて。僕は親父に・・・』 「そうだったの・・・あの変なこと聞いちゃって御免なさい」 青年は少年を肩車をしながら言った。 『ねえ良かったらとっても綺麗な青空だし外散歩しない？』 『やったー！！ねえアニ−いいでしょ！』 「いいけど・・・そうしたらちゃんと帽子かぶってから、行きましょう！」 『やったー！ありがとう！！』 少年の笑顔を見ながら、自分自身も頬がほころんで来そうで、それを懸命に抑えようとしていた。 そして今まで決して見たことがない少年の屈託のない笑顔を見ながら、とても幸せな気分になっていた。 少年が散歩に来ていた一匹の犬と戯れているのを見ながら、二人はすぐそばの白いベンチに座っていた。 「ねえ、一つ聞いてもいい?」 『いいよ・・・・・』 「ホームステイなんてしないで、お母様とあの子と暮らす事は出来ないの？」 『ああ、その事・・・母は先月再婚したんだ。だからあいつはともかく僕は邪魔だろ？ こんな大きな子供がいちゃあ。それに海外にいる父がだまっちゃいないよ。 本当は僕がこの国へ来るのさえ反対だったんだから、でも、弟の事が気になって、それで父方の親戚のマーサ叔母さんのところにお世話になる事にしたんだ・・・・・』 「そう、又余計な事聞いちゃった！あの子のあんな笑顔見たことなかったから。・・・謝るわ・・・」 すると彼女の方を向き微笑みながら首を横に振った。 『気にすることはないさ・・・でもさっき、君といるときのあいつも十分楽しそうだったけどな』 すると今度は彼女が彼の方を向き 「・・・見ていたの？誰かに見られていると思ったんだけど、又錯覚かと・・・・・」 ”まさか、まさか今までの事、すべてこの人が？いいえ、そんな訳ないわ！そうよ、やっぱりあれは気のせいよ!” 『どうかした？』 「いいえ、でも、あのー、私達前にどこかであった事があるかしら？何だか初めて会った気がしないの、ああ誤解しないでっ！これは、いい加減な話じゃなくって、その・・・・・」 すると彼は少し困ったような顔をして、まるで自分に納得させるかのように頷くと 『・・・・・・・・・ある、あるよ』 とだけ答えた。 びっくりしたようにその蒼い瞳を大きく開け彼の事を見つめると、首を横に振りながら 「わからない・・・・・・・いつなの？どこで？」 『わからないかい？フランソワ−ズ・・・僕たち約束したよね、絶対に君の事を探し、今度はずっと一緒に生きていくって・・・・・』 それを聞いた彼女は、彼が何を言わんとしているかまるで検討がつかなかった。 ”？？なっ、なにを言っているの?この人は・・・フランソワ−ズっていったい・・・ 何だかとっても懐かしい響きだけど、でも、でも誰なの？何がいいたいの？” 言葉にならず固まってしまったアニ−に向かって、やさしく言葉を続けると 『ごめん！突然驚かせてしまったようだね・・・でも、君が覚えのない夢に悩まされているって聞いたけど、この僕も同じようなことで悩まされていたんだ！ずっと子供のころからね・・・。夢は現実じゃないってよく言われるけれど、君も僕もきっと同じ夢をずっと見続けてきたんだよ、実際にこの魂が覚えていた事を・・・』 と言いながら、自分の胸を指差すセルジュ。 「魂ですって？」 すると彼女は首を横に振りながら 「あなたが何を言おうとしているのかわからないわ・・・。私はこれでも、医者を志しているわ、心の病気専門だけどでも科学的な勉強もちゃんとしてきたつもりよ。どっちかって言うと科学的根拠がないと、納得が出来ないって言うか・・・」 『本当に？本当にそう思っているの？じゃあ聞くけど、君はどうして自分が見た夢に、悩まされてきたの？何か科学的根拠ってものがあるの？あるとして本当にそれで納得できたのかい？』 「やめて！」 と言って急に立ち上がると 「もう戻らなきゃ！担当のドクターがいらしゃる時間だわ！」 と言って、犬と戯れていたテリ−を呼び寄せると、そそくさと病棟に帰っていってしまった。 ＊ 病院の中のカフェテラスで外の景色を見ながら、ただ何も考えずにぼんやりしていると、親友のマージがやって来て 『アニ−！どうしたの？ボーッとして・・・心ここに非ずって感じね？』 「ああマージ、今日の勤務は終了なの？」 『うんまあ・・・後はレポートを家で作成するだけ。』 「そう・・・・・・・」 『ねえアニ−ったらどうしちゃったの？』 「マージは生まれ変わりって信じる？」 『生まれ変わりですって？』 そんなマージの反応に頷くと 『そうね！あってもいいんじゃない？でも医療を志す人間としてはどうかしらね。・・・とてもロマンチックだとは思うけれど』 「そうよねー,ロマンチックよね・・・」 『もうっアニ−ってば！本当にへんよっ！そうか！ひょっとして恋でもしちゃったとか？』 「えっ？ちっ違うわよっ、もうちゃかさないでよ、私は真剣に考えているの！」 『アニ−それってヤバイよ！もしかしてまた変な夢を見たとか？ねえ、きっと疲れているせいだよ。実習に入ってから私達ずっと緊張のしっぱなしだったしさあ・・・』 「そうかもね、なんかこうパーッと、たまには行きますか？」 『いいね、いいね、行こう！みんな誘ってさっ』 マージ達と別れて家に帰宅すると、行きつけの店で友人たちと楽しんでいた時には、忘れかけていた先程のセルジュとの会話が蘇る。 ”あーっもういやになちゃう！何のために騒いだのかわからなくなるわ・・・” 溜息をつきながらベッドに横になり天井を仰ぐと、一つ又一つ、夢で見た光景が思い出されてきて、自分なりに整理をしてみる。 ”約束、ジョー、バレリーナ、ジゼル、サイボーグ、赤ん坊、？？？ いったいこれらの夢がどこでどうつながっていると言うの？？ 彼のいった事、確かに科学的根拠なんてないけれど、前に教授が、潜在意識の中にあるものが、夢に出てくるって。でも、でも今までバレー公演に行ったこともなかったし、赤ん坊なんて・・・。それに、ジョーって？そう言えば私の事をフランソワ−ズって・・・” などと考えながら、そのまま眠ってしまった彼女は、その夜もまた同じような夢を見ることになった。 小鳥の囀りと、朝の日差しが彼女を眠りから呼び覚ました。そう、フランソワ−ズを・・・ そっとベッドの上に起き上がると、彼女は自分の手を暫く眺めてから鏡の前に座り、その姿に驚愕していた。 そこには、今までの自分と同じ蒼い瞳ではあるが、髪の色が金髪で、いかにも聡明そうな美しい女性が映し出されて居たからだ。 ”私、いったいどうしちゃったのかしら？私生きているの？いいえ、そんな筈はないわ！ あの時、あんなに苦しくって、ジョーに抱きしめられていて・・・ ハッ！ジョーは？ジョーは無事だったのかしら・・・ウッ・・・” と、突然の頭痛に、頭を両手で抑えながら暫くそれに耐えていた。 すると今度は、アニ−の記憶が蘇ってきて、少しずつではあるが、これまでの双方の記憶が走馬灯のように蘇り、今置かれている、状況が理解されてきた。 ”行かなくちゃ！彼に会いに、ああそうだったの、約束を守るために・・・” 涙がとめどなくあふれ出てきて、居ても立っても居られなくなり部屋を飛び出していた。 気が付くとマーサおばさんの家の前に立っていた。 暫くそこに佇んでいると、彼が家から出てきて車に乗り込もうとして、彼女の姿に気づき声を掛けてきた。 『おはよう！朝早くからどうしたんだい？マーサおばさんに用事でも？』 すると彼女は、その首を横に振った。 『じゃあいったいどうしたの？まさか僕に会いに？』 今度は黙ったまま頷いた。 ”いったいどうしたって言うんだ、まさか、まさか君・・・” 『ここじゃなんだから、とにかく乗って！』 と、車の助手席のドアをあけた。 彼女が車に乗り込むと、彼は無言のまま車を発進させた。 『どこか行きたい所は？』 「ないわ、でも二人っきりになれるところがいいわ」 『了解！』 暫く坂道を登った丘に車を止めると 『少し外に出て風にあたらないか？』 「ええそうね」 と二人とも外に出ると、町の景色が良く見える場所まで歩いていった。 『アニ−？本当にどうかしたの？』 すると、景色を眺めていた彼女は、恐る恐るその顔を彼に向けると 「あのねっ、あなたが昨日言っていた事・・・」 そこまで言って、言葉に詰まる。その蒼い大きな瞳から大粒の涙が溢れ出ていた。 『アニ−？』 「・・・・・ジョー？」 一言、彼の名前を告げると、彼は驚いた顔をして 『フッ・・・フランソワ−ズ？』 と、彼女のもう一つの名前を呼んでみた。 ゆっくりと頷く彼女のその顔が微笑むと、彼は心の底から言い尽くせない熱いものが湧き上がってきた。 思わずその体を自分の方に抱き寄せ、やっと会えた喜びに感謝しながら、その腕の力を強めていった。 「ありがとう！約束を守ってくれて、私の事を探してくれて・・・」 『僕の方こそ、昨日は少し焦りすぎたかなって心配していたんだ』 「私ね、毎日のように夢を見ていたの。同じ夢を何度も何度も。それなのに思い出せなくってごめんなさい・・・」 ”いいんだよ、そんなこと・・・。こうして又抱きしめる事が出来るだけで・・・” ＊ １年後、二人を祝福する人々が町外れにある、小さな白いチャペルに集まっていた。 『私はね、学生結婚なんて、反対していたのよ！でも、二人ともあまりにも真剣だから、セルジュの父親にかけあってみたのよ・・・』 大きな声で話をするマーサおばさんの横で、アニ−のパパが大泣きしているのをママがなだめている。 セルジュの父親と母親もこのときばかりは、式に参列するために、駆けつけていた。 弟のテリ−とアニ−の親友のマージは、ブーケを手に持ち、係員の案内を待っていた。 控え室で見詰め合う二人。 フランソワ−ズはその髪をアップにして、真珠のアクセサリーを身に付け、純白のシンプルだが品の良い白いドレスに身を包んでいた。 ジョーはグレーの光沢のあるタキシードを着ていて、とても凛々しく颯爽としていた。 『きれいだよ、とっても・・・』 「ありがとう！あなたもとっても素敵よ！」 そう言いながらウィンクをして見せた。 「ねえ、二人で居る時なんだけど、あなたの事をジョーって呼んでもいいかしら？」 『僕も、ずっとフランソワ−ズって呼ぼうと思っていたんだ！』 二人とも見つめあいながら微笑んだ。 『あれからどのくらいの時がたったのだろう、僕たちは、こうして又会える日をずっと信じてきたんだね。平和な世の中になって、本当に良かった。』 「そうよ、ジョー。私達この平和の為に、あの時ずっと戦っていたんだわ！ 決して無駄なんかじゃなかった。・・・そして今は、サイボーグじゃない人間として再会できたのよ」 『ああそうだ！これからは、人間として、一緒に居られるんだよ・・・。 フランソワ−ズ、僕は、僕は今までもそしてこれからもずっと君だけを思っているよ』 「私もよジョー！愛しているわ、今度生まれ変わっても又その次生まれ変わっても」 『僕も愛してる！もう絶対に離さないから、絶対・・・』 「人間って同じ過ちを繰り返してしまうけれど、もうあんな思いは絶対にしたくないわ・・・。 そして、信じたいの。私達の願いは、みんなが幸せに笑って暮らす事ができて、そして決して希望を忘れないって・・・」 『ああ僕も同じ思いだよ』 じっと見つめあう二人に、迎えに来た係員がドアをノックすると 『さあ、行こう僕たちの未来へ・・・』 と、彼が手を差し出し、彼女は満面の笑顔で、自分の手をそっと重ね、二人並んで歩き出した。 どうかこの幸せが、そして平和が永遠でありますように、と願いをこめて・・・ |