このままゆっくりと目を閉じてしまうがいい。 もう終わったのだ。 すべて。 どこからか聞こえるその声に応えるまでもなく 僕は冷たく沈んでいく闇に すでに静かに身を委ねていた。 甘やかな眠りを妨げる突然の眩い光。 固く瞑ったはずの瞳に飛び込んできた 真っ白な輝き。 ああ、やっぱりキミはそこにいてくれたんだね。 そこでずっと僕を待っていてくれたのかい？ いつかの約束通りに。 もはや自分の意思では動かせなかったはずの右手が 無意識に刺し伸ばされる。 だがしかし――― やはり決して何かを掴むことはないのだ。 すでに僕はこちら側にいる。 そんな僕を引き上げることなど 何者にも出来はしないのだから。 そうだ。 わかっていた。 この手はもう二度と光に触れることがないと。 運命の日に、僕はたった独りでこの時を迎える。 キミと約束するずっと前から そのことはわかっていたはずだった。 冷え切った頬を伝う己の涙。 機械の体の、偽りの温もり。 独りで往く覚悟はとっくに出来ていたはずなのに。 これこそが僕にふさわしい瞬間なのだと わかっていたはずなのに。 けれど。 僕を包むこの海の蒼さが キミの瞳の色と同じだと気づいたその時 僕は眩いばかりの喜びに包まれた。 深い深い海の色。 高い高い空の蒼。 限りなく澄み切ったこの輝きこそが 僕の生命（いのち）の根源。 帰るよ。 僕はいま還る。 この世に生を受けた意味をかみしめながら 約束どおり、キミのところへ。 Back