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その地方で羊飼いたちが野宿をしながら、 夜通し羊の群れの番をしていた。 すると、主の天使が近づき、主の栄光が 周りを照らしたので、彼らは非常に恐れた。 天使は言った。 「恐れるな。わたしは、民全体に与えられる大きな 喜びを告げる。今日ダビデの街で、あなたがたの ために救い主がお生まれになった。 この方こそ主メシアである。 あなたがたは、布に包まって飼い葉桶の中に 寝ている乳飲み子を見つけるであろう。 これがあなたがたへのしるしである。」 すると、突然、この天使に天の大群が加わり、 神を賛美して言った。 「いと高きところには栄光、神にあれ、 地には平和、御心に適う人にあれ。」 ルカによる福音書 『新約聖書』 日本聖書協会 |
| 突然、すべての外灯が消えた。 あたりは闇に包まれ、人混みからもざわめきが消えた。 まるでラッシュ時の通勤列車のように混雑した通りは、一瞬にしてしんと静まり返り、スピーカーから流れ出す荘厳な音楽だけが響きわたる。 いよいよだね、とつないだ手をそっと握り締めたジョーを、フランソワーズは笑顔で見上げた。 「ほら、よそ見してたら、せっかくの瞬間を見逃しちゃうよ。このために今までずっと並んでたんだから」 ジョーが耳元に唇を寄せて囁くと、彼女はくすっと笑って頷き、ゆっくりと頭上を仰いだ。 その瞬間―――世界は一変した。 赤、青、緑。そして黄金色。まるで光の洪水。 無数の電球が競うように輝き、闇を一瞬にして圧倒した。 ため息とも叫びともつかない声が上がる。どこからともなく拍手が沸き起こった。 「・・・なんて・・・綺麗なの・・・」 息を呑んで光のゲートを見上げていたフランソワーズが、小さく呟いた。 やがて群集は一斉に歩み始め、その波はうねりとなって、光のアーチの下を東へ東へと流れていく。 はぐれてしまわないように、ジョーは細い体を腕の中に抱き寄せようとして、ハッとした。 白い頬を伝う一筋の涙が、色とりどりの光を受けて煌いている。 見慣れているはずなのに。 誰よりも彼女の美しさをわかっているはずなのに。 素肌に、ルージュを引いただけの横顔。 思わず見とれてしまうほど、今夜のフランソワーズは綺麗だった。 群集に押され、あたたかい体がぐっと寄り添う。 うっとりするほど甘やかな匂いが、鼻腔を満たしていく。 「フランソワーズ・・・」 かすれた低い囁きに、蒼い瞳が微笑んで応える。 腕にそっと力をこめ、ジョーは愛しい人をしっかりと包み込んだ。 ＊ 「寒いだろう？」 そう尋ねたジョーの吐く息が白い。 前を向いたまま、フランソワーズは小さくかぶりを振った。 その肩をストールでそっと包むと、ジョーは彼女と並んでベランダの手摺にもたれた。 「ありがとう」 蒼い星のような瞳が、じっと見上げる。 「山の上だけのことはあるね。市街地から３０分ほどのところなのに、まるで別世界の寒さだな」 「博士たち、どうしてた？」 「イワンはぐっすり寝てるし、大人やグレートたちもついさっき帰ってきたって。今日はパーティーがたくさん入ってて、てんてこ舞いだったらしいけど。何も心配要らないよ」 柔らかい微笑を浮かべて、ジョーは優しく言った。 「そう、よかった・・・」 彼女は静かに視線を正面に移した。 黒い山肌が広がり、その向こうに宝石のような色とりどりの灯りが散りばめられている。 「・・・綺麗ね。もうすぐ日付が変わるのに、街はまだ輝いているわ。ほら、ずっと海の向こう側まで繋がって、まるで光の輪みたい」 眼下には無数の人工の灯り。そして天上には一面の星。 「今夜こんなに星が出てたなんて、ちっとも気がつかなかった。地上が明るすぎたせいだね」 凍てついた空気が、星々の光をいっそう蒼く輝かせている。 「ありがとう、ジョー」 かすかな囁きに、ジョーは少し不安になって、彼女の顔を覗き込んだ。 だが、そこにはいつもの優しい微笑が湛えられている。 じっとジョーの目を見つめると、彼女はまた同じ言葉を繰り返した。 「ありがとう、ジョー。来てよかったわ。夢みたいに綺麗だった・・・」 君の喜ぶ顔を見られるなら、僕は何だってする。 これくらいのことで君の気持ちが晴れるなら。 そんな言葉を口にする代わりに、ジョーはただ黙って彼女の肩を抱いた。 ガレリアと名づけられた光の回廊をゆっくりと進みながら、フランソワーズは夢中になって光の織り成す幻想的な空間に見入っていた。 回廊を抜け、巨大な円形の光の壁を目にしたとき、彼女は子供のようにはしゃいだ声を上げた。瞳をキラキラ輝かせ、屈託なく笑う彼女の姿は、本当に久し振りだ。 この微笑を見られただけで、来た甲斐があったとジョーは思う。 ずっと彼女は沈んでいた。 クリスマスの１ヶ月ほど前に、彼らは研究所に戻ってきたばかりだった。 皆、心も体も傷ついて疲れ果てていた―――それはいつものことだ。 自分たちは戦場にいたのだから。 それが闘いというものなのだから。 時間とともに、体の傷は癒えていく。 でも心は違う。闘いを重ねるたびに、時間が経過すればするほど、その痛みは澱のように心の底に重く沈んでいく。 いつか、それに慣れるのだろうか？ この鋼の体と同じように、いつか心も固く強くなって、何にも傷つかなくなるのだろうか。 傷つかなくなったら、何も感じなくなる？そうしたら、自分たちは――― そんな不安から自分たちをいつも救ってくれるのが、彼女の笑顔。 けれど、だからこそ、一番辛い思いをしている。今回も。 仲間たちに悟らせまいと、彼女は懸命に明るく振る舞っていたけれど。 それに気づいていたからだろう。 あと１週間でクリスマス、という時になって、彼らはさっさと故郷に帰ってしまった。 いつもは何だかんだとチョッカイを出して、２人きりのクリスマスを阻止しようと躍起になるのに。 「ジョー、あとは任せたぜ！せっかくのクリスマス、今年は邪魔しねえから、感謝しろよっ！！」 ジェットが、いつもの調子でジョーの頭を小突く。 「何するんだよ！乱暴はやめろよ、ジェット！」 そんな２人のやり取りを、アルベルトは呆れ果てたように鼻で笑う。 でもそれは、彼ら流の愛情表現なのだ。 彼らの真意に、仲間のあたたかい気遣いに、胸が熱くなる。 自分たちはいつも仲間に支えられている。 ００ナンバーである時はもちろん、ただのジョーとフランソワーズである時も、いつもあたたかく見守られている。仲間たちにも、博士にも。 そもそも、この旅行をジョーに提案したのは、ギルモア博士だった。 ２人でどこかへ行ってクリスマスをゆっくり過ごしておいで、と博士は暢気に言ったが、実のところジョーは不安だった。 でも、こんな旅行ぐらいで―――いや、彼女のことだ。むしろ逆効果になるかもしれない。 案の定、フランソワーズはこの提案に乗り気ではなかった。 けれど半ば強引に、ジョーは彼女を連れ出した。 「最初、ジョーが行き先を教えてくれなかったから、北極にでも行くのかと思ったわ。クリスマスらしいところ、としか言わないんだもの」 「まさか。新幹線じゃ北極には行けないよ」 ジョーはおどけて言った。 「ねえ、いったいいつから考えてたの？ジョーにしてはずいぶん計画的ね」 「ジョーにしては、って酷いな、フランソワーズ！よっぽど僕が、いつも行き当たりばったりみたいじゃないか」 からかうような口調にジョーが唇を尖らせると、彼女はくすくす笑った。 「だって今の時期は観光客が多いから、この街のホテルはどこもいっぱいなんでしょ？しかもクリスマス・イヴに、こんな贅沢な部屋なんて。手回しがよすぎて、びっくりしちゃったの。何だか・・・ジョーらしくないって思えて」 一瞬返答に詰まったジョーは、ちょっと照れたような笑いを浮かべた。 「計画したのは帰ってきてからだよ、もちろん」 「２週間前・・・よりあとでしょ？よく予約がとれたわね」 「・・・ホントのこと言うとね、大人に協力してもらったんだ」 「大人に？どういうこと？」 フランソワーズは首を傾げた。 「このホテル、彼の知り合いが経営してるんだ。だから無理を聞いてもらえたんだけど」 神戸には、華僑と呼ばれる中国系の住人が多い。祖父の代に福建から移り住んだ張々湖の知人は、市内にいくつもの中華料理店を持ち、貿易会社やホテルも経営して、手広く商売をやっているという。 「でも・・・まさかこんなすごい部屋だなんて思ってなかったから、ちょっと怖気づいてる」 豪華なスイートルームのリビングには、研究所のものよりも２回りほど大きなツリーが飾られていた。マントルピースの炎が、金銀のモールやカラーボールを赤々と照らしている。 ２人きりで過ごすには、落ち着かないくらい広い。 「ほんとね。みんなで来ても、十分泊まれるぐらいだわ。・・・・・・そう・・・・・このホテル、大人が手配してくれたのね」 微かに瞳が潤んだ。 「みんなにも・・・心配かけちゃったわ。ほんとに・・・・・・ごめんなさい」 ジョーは彼女の体をすっぽりと抱きしめ、柔らかな亜麻色の髪に顔を埋めた。 いつものことだけど、とフランソワーズは呟くように言った。 「あまりにもギャップが大きすぎて、違和感に押しつぶされそうになるの。どこにいる自分が本当の自分なのかわからなくなって」 戻ってきた街は、平和で、綺麗で、明るい。 でも、そこにはただ物と欲望が溢れかえっているだけ。 みんな自分だけの幸せを貪欲に求めてる。 どんなに明るくても、それは虚しい灯り。偽りの光。 真実から目を眩せるように輝いているだけで、ぬくもりも優しさもない。 ―――違う。そうじゃない。 ただ居たたまれなかったの。 結局、何も出来なかった。ただ終わらせただけ。何も変わっていない。 「なのに私たちは、平然と戻ってきた。自分たちだけが、こんな穏かな平和な生活に・・・」 助けることの出来なかった命がたくさんあるのに。 助ける？ 違うわ。私たちには何も出来ない。誰かを助けるなんて・・・そんなこと・・・出来ない。 「なのに・・・」 細い指がシャツをぎゅっと握り締める。逞しい胸にそっと額を押し当てて、彼女は静かに涙をこぼした。ジョーは震える肩を抱きしめて、亜麻色の髪に何度も優しくキスを繰り返した。 やがて、ごめんなさい、とフランソワーズは笑顔をジョーに向けた。 「あきれちゃうでしょ？ひとりで悲劇のヒロインみたいに落ち込んじゃうなんて、馬鹿みたい」 みんな同じなのに。 同じ思いなのに。 それは決して口にしてはならないことなのに。 「なのに、私だけがその辛さに耐え切れなくなって・・・こんなふうに弱音を吐いて。あなたにも、みんなにも心配かけてる」 いつも。 いつまでたっても。 「違うよ。そうじゃない」 きっぱりとジョーは言った。 「君が辛そうにしているのを見るのは、僕ももちろん辛いけど」 でも、と長い睫をつたう雫を拭いながら、彼は優しく言った。 「でもね、思うんだ。この辛さを感じなくなったら、僕たちは終わりだって」 「ジョー・・・？」 「戦いが終わるたび、辛くて、苦しくて、ただ割り切れない思いだけが残る。でもそれでもやっぱりどこか、僕たちは、特に僕はそれに慣れてきている。そんな気がする」 当たり前の悲劇。 世界のどこにでもある惨状。 次第に、心は痛みに麻痺してきている。 慣れなくては自分自身がおかしくなってしまう。だから―――そんな言い訳で、自分を正当化しようとしてる。 「でも、君は違う」 君はそこから目をそらさない。だから余計に辛い思いをしている。 「でもそれが、君の強さだ」 その強さが、いつも僕を支えてくれてる。 「違うわ！私はただ意気地がないだけよ」 目の前の苦しみや辛さを乗り越える勇気もない。 「それでいて、自分が一番傷ついているって可哀想がってるの。みんなにも、あなたにも甘えてるだけ」 「フランソワーズ！違うって！」 「違わないわ！」 思わず大声を出した２人は、ハッと口を押さえて、次の瞬間、顔を見合わせて吹き出した。 「夜中にこんな静かなところで喧嘩してるなんて、私たち、何やってるのかしら」 「せっかくのイヴなのに。ちゃんと他にすることもあるのにね」 茶の瞳がいたずらっぽく笑う。 「他にすること・・・って？・・・あ・・・ジョーったら！」 さっと頬を染めたフランソワーズは、甘えるように優しく睨み、くすっと笑った。 「ごめんなさい。せっかくのイヴなのに、こんな話になっちゃって。でも―――もう大丈夫」 「フランソワーズ・・・？」 そっとジョーの腕を解くと、彼女はまた街の灯をじっと見つめた。 「あそこにいた人たち、とても幸せそうだった。みんな笑ってた」 みんなが、本当に幸せなのかどうかはわからない。 でもあの光を見ながら、みんな幸せになろうとしていた。 誰かを思い、何かを願い、そして祈っていた。 「それをみて気づいたの。幸せから目をそらそうとするのも、卑怯なことだって」 私たちに出来ることは、この痛みを抱えながら生きていくことだけだから。 闇を知らなければわからない。けれど光から目をそらしていたのでは、決して見えはしない。 そこにこめられた人々の願い。光を包む思い。そしてそのぬくもり。 だからこそ。 たとえ、その光が消えても心の中にちゃんと残っている。 その光への思い。未来への希望。 「もし、いつか私たちが・・・・」 「フランソワーズ・・・？」 心配そうに顔を覗き込むジョーに、彼女は小さく首を振って微笑んだ。 「でも・・・どんな形でも・・・未来に繋がっていくわよね」 それは決して終わりじゃない。 すべての照明が消された後も、暗い公園の片隅で静かに燃え続けていた、あの小さな鎮魂の炎のように。 きっと未来に、その思いは受け継がれていく。 突然、低い汽笛が聞こえた。 ちら、とジョーが腕の時計を見た。針は１２のところでぴたりと１つに重なっている。 「メリークリスマス！」 微笑みあい、そっと口づけを交わす。甘い匂いがジョーをふわりと優しく包んだ。 「寒くない？」 「ううん。大丈夫」 「でも、ここで一晩中こうしてるつもり？僕は寒いよ。凍えそうだ」 わざと大げさに震えて見せるジョーに、彼女はくすくす笑った。 「うそばっかり」 「ほんとだよ。ね、だから・・・」 「え？あ・・・」 フランソワーズの両手をつかむと、ジョーは自分の頬に押し当てた。 「あたためて」 「ジョー？」 そっと瞳を覗き込むように、顔を近づける。 「君の唇、とってもあたたかいから」 「あ、待って。まだ口紅が・・・ん・・・」 唇のぬくもりを全部奪ってしまうほど激しいキスのあと、ジョーはふわりと彼女を抱き上げた。 天井をぼんやりと照らすベッドサイドの小さな灯り。ガラス容器の中で、蝋燭が揺れている。 「やっぱり・・・口紅、うつっちゃったわ」 細い指が、ジョーの口元を愛しげにたどる。 「・・・どうりで甘い味がすると思った」 君の味がする。 「・・・ばか」 甘い唇を彩るルージュは、白磁の肌をいっそう透明に輝かせる優しい薔薇色。 さりげなく胸のリボンを指で解くと、キスで滲んだ唇の輪郭をそっとなぞった。 「この色、綺麗だね。よく似合ってる」 「これね、ジェットからのクリスマスプレゼントなの」 え？！！ 思わず全身が硬直する。だが彼女は屈託なく笑った。 「今年の新色で、”天使のキス”って名前なんですって」 「ふうん・・・ジェットにしてはいい趣味だね」 つとめて平静を装う。でも――― 「クリスマスは一緒に過ごせないから、そのかわりイヴには必ずつけてくれって言われたの」 イヴに必ずつけろだと？！！ 今年はいやにおとなしく引き下がったと思ったら、そういうことだったのか。 ジョーの脳裏に、勝ち誇った表情でウィンクするジェットの姿が浮かぶ。 せっかくのキスを彼に邪魔されたような気がして、無性に腹立たしくなる。 ジョーは、細いあごをぐい、と持ち上げた。 「ん・・・」 乱暴に唇を奪う。 「んんっ・・・ジョー！いやっ！！どうしたの？苦しいじゃない！」 懸命に顔をそむけようとする彼女の頬を、ジョーは強引に両手ではさみこんだ。 「全部、取ってやる」 「え？・・・何を？あ・・・んんっ・・・い・・・や・・・」 むきになって唇をむさぼる激しいキスに、やがて優しい抵抗も次第に弱まっていった。 微かな喘ぎ。 白い肌が、ゆらゆら揺れる金色の光に晒されて、薄紅色に染まっていく。 なめらかな喉。その下に続く美しい球形のラインを丁寧になぞるたび、立ち上る甘い花の香り。 一糸纏わぬはずの肌を、その艶やかな匂いが薄絹のように包んでいる。 ひときわ美しい今日の彼女にぴったりの・・・ ―――まさか？！！ 急に動きを止めたジョーを、とろんと潤んだ瞳が怪訝そうに見上げた。 「ねえ、フランソワーズ・・・」 「なあに？」 誘うような半開きの濡れた唇に、たまらずまた唇を重ねる。もうそこにはあのルージュの痕跡はない。 だが問題は、この匂いだ。 乱れた長い髪をかき上げ、白いうなじ―――いつも彼女は此処につけるはずだから―――に、その源を確かめるように唇を這わせた。 「これも・・・？」 「これ・・・って？・・・ああっ・・・・・・・なんの・・・こと・・・？」 大きく喉をのけぞらせながら、蕩けるような声で彼女は尋ねた。 「このトワレ・・・もしかして・・・クリスマスプレゼント？」 「トワレ？・・・あ・・・ええ、アルベルト・・・から貰った・・・・のよ。んっ・・・・」 やっぱり！！ 「でも・・・どうして？・・・あ・・・んっ・・・いや」 この匂いは、口紅よりもずっと始末に負えない。 彼女の素肌に纏わりついて、決して消えようとしない。 「いつ、つけたの？」 「朝よ・・・あ・・・・ちょっとだけ・・・つけたきり・・・・・あっ・・・」 もう半日以上たっているのに。 匂いは薄らぐどころか、その肌に触れるジョーの手にも、いや、全身に染み込んでいく。 肌にさす紅が濃くなるにつれて、ますます強くなる。 「ねえ・・・お願い・・・ジョー・・・もう・・・」 だがジョーの指と唇は、いっそう執拗に滑らかな曲線をなぞり続けた。 ―――待って、フランソワーズ もう少しだけ我慢して ちゃんと贈るから 溢れるほど 他の誰にも決して真似できないもの ２人を未来につなぐものを でも、もう少しだけ もう少し、この匂いが消えるまで我慢して 君は、僕の光 僕の心の闇を照らす灯 だから誰にも奪わせない 君のぬくもりは僕だけのもの 誰にも決して渡さない だから・・・ |